1994 FIFAワールドカップ・アジア予選

1994年にアメリカ合衆国で開催されたFIFAワールドカップの本大会出場をかけた、アジアサッカー連盟（AFC）加盟国による予選大会です。この予選にはアジア地域から30チームがエントリーしましたが、うち2チームが後に棄権したため、実質的には28チームが参加しました。本大会に進出できるアジア枠は、わずか2チームでした。

予選は二段階に分けて行われました。

1次予選

参加30チームを、5チームずつ6つのグループに振り分けました。各グループでは、特定の場所で連続して試合を行う集中開催方式の総当たり戦（セントラル方式）が2順実施されました。これは、1順目と2順目で異なる都市を会場とする「ダブルセントラル方式」が採用された形です。各グループの首位となった計6チームが、最終予選への進出権を獲得しました。

各グループの開催地は以下の通りです。

グループA: 1順目はヨルダンのイルビド、2順目は中国の成都で開催されました。
グループB: 1順目はイランのテヘラン、2順目はシリアのダマスカスが舞台となりました。このグループではミャンマーが棄権しています。
グループC: 1順目はカタールのドーハ、2順目はシンガポールで行われました。
グループD: 1順目はレバノンのベイルート、2順目は大韓民国のソウルが会場となりました。
グループE: 1順目はマレーシアのクアラルンプール、2順目はサウジアラビアのリヤドで行われました。ネパールはこのグループで棄権しています。
グループF: 1順目は日本の東京、2順目はアラブ首長国連邦のドバイで開催されました。

最終予選

1次予選を勝ち抜いた6チームが一堂に会し、カタールの首都ドーハで集中開催方式による1順の総当たり戦を実施しました。この最終予選を勝ち点上位の2チームが、晴れて1994 FIFAワールドカップ本大会への出場権を手にする仕組みでした。

特記事項

この最終予選は、特に日本代表にとって忘れられない出来事の舞台となりました。本大会初出場が目前に迫っていた日本は、最終戦でイラクと対戦しましたが、試合終了間際のロスタイムに同点ゴールを許し、これによりワールドカップ初出場を目前で逃すことになりました。この劇的な敗退は、「ドーハの悲劇」として今日まで語り継がれています。

また、最終予選に参加した国の中には、当時アメリカ合衆国から経済制裁を受けていたイラクやイランが含まれていました。これらの国が仮に本大会出場を決めた場合、開催国であるアメリカとの関係性において懸念の声も一部で上がっていたことが記録されています。

最終予選の試合を裁いた審判団が、全て欧州サッカー連盟（UEFA）出身者で構成されていた点も注目に値します。これは、大会のゼネラル・コーディネーターが説明したところによると、アジア域内の国同士の対戦では、特定の国籍を持つ審判が担当することで中立性を保つのが非常に難しくなるため、外部である欧州の審判を起用することで、より公平なジャッジを担保しようとした意図があったとされています。

さらに、この予選はアジアのサッカー史において重要な一歩でもありました。1974年以来アジアサッカー連盟から離れていた中華民国サッカー協会（チャイニーズ・タイペイ）が1989年に復帰し、この大会で中華人民共和国の中国代表と同時に予選に参加しました。これはFIFAワールドカップ予選において、史上初めて中国と台湾（チャイニーズ・タイペイ）の両チームが同じ予選に名を連ねた歴史的な出来事となりました。

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