1998年カンボジア国民議会選挙

1998年カンボジア国民議会選挙

1998年7月26日に実施されたカンボジア国民議会選挙は、カンボジア王国の立法府である国民議会議員を選出するための重要な選挙でした。この選挙は、1993年の制憲議会選挙以来2回目の国民議会選挙であり、カンボジア政府にとって国際的な信頼を回復する上で重要な意味を持っていました。

選挙までの経緯

1997年7月の政変により、カンボジア政府は国際社会からの批判を受け、国際的な信用を大きく損ないました。そのため、政府はパリ和平協定調印（1991年10月）以来2回目となるこの選挙を「自由かつ公正」な選挙として国際社会に承認してもらう必要がありました。特に、アメリカを中心とする諸外国は、7月政変で事実上の亡命生活を余儀なくされていたノロドム・ラナリットの選挙参加を重視していました。しかし、フン・セン首相はラナリットが非を認め、恩赦を請わなければ帰国を認めないという強硬な姿勢を崩さず、事態は膠着状態に陥っていました。

このような状況の中、日本は2月5日に以下の4項目の提案を行いました。

1. ラナリットはクメール・ルージュ（KR）との関係を断つこと
2. 政府軍とラナリット派部隊は即時停戦し、同派部隊は政府軍に再編入すること
3. カンボジア司法当局は、国王によるラナリットへの恩赦付与が可能となるように、ラナリットに対する裁判手続きを速やかに行うこと
4. カンボジア政府は、ラナリットの帰国と自由な選挙活動を保証すること

フン・セン首相がこの提案を受け入れたことで、事態は好転しました。2月下旬には政府軍とラナリット派部隊の戦闘が終結し、3月21日にはフン・セン首相がラナリットへの恩赦を容認しました。同日夜には恩赦付与の王令が下り、3月30日にはラナリットが9ヶ月ぶりに帰国を果たしました。さらに、ラナリット帰国翌日には、立候補資格に関する居住要件を今回の選挙に限り適用しない旨を規定した「国会議員選挙に関する法律」追加法が国会で可決され、ラナリットの立候補資格が認められることになりました。

選挙運動開始を目前にした6月21日、国家選挙管理委員会（NRC）は、ラナリット率いるフンシンペックを含めた39政党すべてに立候補資格を認めました。これにより、武装勢力の組織を禁じた政党法第6条に抵触する疑いがあったフンシンペックも選挙に参加することが正式に認められました。

選挙結果とその後

6月24日から公式の選挙活動が開始され、7月24日に選挙運動が終了、7月26日に投票が行われました。選挙の結果、人民党が第一党、フンシンペックが第二党、サム・ランシー党が第三党となりました。

諸外国から派遣された選挙監視団員で構成される国際合同監視団（JIOG）は、選挙運動終了後の7月24日に「有権者登録と選挙運動は概ね順調に行われ、受け入れることのできる水準である」との声明を発表しました。投開票後もJIOGは投開票について「自由で公正」であったと評価しました。また、監視団の評価基準が甘いとして投票日直前にJIOGから脱退したアメリカの共和党・民主党シンクタンクによる合同監視団も「概ね評価でき、比較的成功した」という肯定的な評価を発表しました。

1998年11月30日、フン・センを首相とする新しい政府が発足し、カンボジアは新たなスタートを切りました。

参考文献

* 天川直子「国際社会の信頼を取り戻すために : 1998年のカンボジア」『アジア動向年報 1999年版』、日本貿易振興会アジア経済研究所、1999年、223-246頁

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