2台のピアノのための協奏曲 (ヴォーン・ウィリアムズ)

レイフ・ヴォーン・ウィリアムズの「2台のピアノのための協奏曲 ハ長調」（正式名称：Concerto for Two Pianos and Orchestra）は、作曲家の管弦楽付き鍵盤楽器作品の中でも、その成立経緯や音楽的な特徴において、一線を画す存在です。

この協奏曲は、当初から2台のピアノのために構想されていたわけではありませんでした。ヴォーン・ウィリアムズは、1926年から1930年にかけて、まず単独のピアノと管弦楽のための協奏曲としてこの作品を完成させました。その1台ピアノ版は、1933年にイギリス楽壇の重鎮であったエイドリアン・ボールト卿の指揮によって初演されました。

しかし、初演後の専門家からの評価は、この単一ピアノ版が、演奏家にとって技術的に極めて難しく、楽曲が求めるものが過剰であるという厳しい意見が多数を占めました。作曲家自身もこの評価を受け止め、作品をより演奏可能な形で提示する必要性を感じたと考えられます。

こうした背景から、ヴォーン・ウィリアムズは作品の改訂を決意します。彼はピアニストであり、音楽学の研究者でもあったジョセフ・クーパー氏の協力を得て、元の1台ピアノ版の協奏曲を、2台のピアノと管弦楽のための協奏曲へと全面的に再構成する作業を進めました。

こうして改訂された2台ピアノ版は、1946年に初演の運びとなりました。2台に分散されたことで、ある程度は演奏上の負担が軽減された側面はありますが、作品の本質的な技術的難易度は依然として高く、ピアニストには高度な技巧とアンサンブル能力が求められます。

特にピアノパートの書法は独特で、伝統的な協奏曲における旋律的な扱いに加えて、打楽器のように音色やリズムを強調する役割が際立っています。また、しばしば不協和な響きが効果的に用いられており、当時のヴォーン・ウィリアムズとしては比較的先進的な音楽語法への試みがうかがえます。

楽曲は以下の3つの楽章から構成されています。

第1楽章：トッカータ、アレグロ・モデラート
第2楽章：ロマンツァ 、レント
* 第3楽章：フーガ・クロマティカ（アレグロ）－コン・フィナーレ・アラ・テデスカ

各楽章の形式名が示す通り、バロック的なトッカータやフーガ、そしてロマンティックな緩徐楽章という対比的な要素が組み合わされています。

全曲を通した演奏時間は、およそ25分程度です。

ヴォーン・ウィリアムズの「2台のピアノのための協奏曲」は、作曲家自身による大幅な改訂という興味深い経緯を持つ作品であり、彼の創作の後期に見られる書法の一端を知る上で重要な楽曲と言えます。技術的な要求の高さから、演奏機会は他の人気作品に比べて限られるかもしれませんが、彼の実験的な側面を示す作品として、今日でも評価されています。

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