2台のピアノのための協奏曲 ホ長調 (メンデルスゾーン)

2台のピアノのための協奏曲 ホ長調 MWV O5

フェリックス・メンデルスゾーンによって1823年に作曲された「2台のピアノと管弦楽のための協奏曲 ホ長調 MWV O5」は、彼が弱冠14歳で書き上げた初期の作品です。生涯にわたる彼の創作活動の中で、特に円熟期の傑作として知られるヴァイオリン協奏曲や、ピアノ協奏曲第1番・第2番などと比較すると、この初期のホ長調協奏曲が今日の演奏機会において顧みられることは多くありません。

作曲背景と作品の特徴

この協奏曲は、メンデルスゾーン自身に劣らぬ優れたピアニストであった彼の姉、ファニー・メンデルスゾーンとの共演を想定して書かれたものと推測されています。そのため、作品全体を通して2人のピアノ独奏者が平等に活躍できるよう、細部にわたる配慮がなされている点が大きな特徴です。

作品に対する批評としては、同時期に作曲された変イ長調の協奏曲と同様に、音楽的な素材に対して楽曲全体の構成がやや冗長であるという評価がされることがあります。しかし、作曲当時のメンデルスゾーンがまだ14歳であったことを考慮すれば、構成上の未熟さが見られるのは無理のないこととも言えるでしょう。むしろ、これは彼の天才がまさに開花しようとする途上にあることを示す作品として捉えることができます。

作品の歴史

この協奏曲の最初の演奏は、作曲の翌年である1824年11月24日、ベルリンのメンデルスゾーン家にて私的に行われました。この時の独奏は、作曲者本人と姉のファニーが務めました。

公の場での初演は、それから数年を経た1829年7月29日、ロンドンにて実現しました。この記念すべき演奏では、メンデルスゾーン自身と、当時著名なピアニストであったイグナーツ・モシェレスがソリストとして共演しました。

作品には、初演後の1829年、あるいは後に1833年にも改訂が加えられたと伝えられています。しかし、楽譜として出版されるまでには長い時間を要し、ようやく日の目を見たのは1961年になってからのことでした。この出版の遅れも、この作品があまり広く知られていない要因の一つと考えられます。

楽曲の構成と楽器編成

演奏に要する時間は、およそ30分から32分程度です。

楽器編成は以下の通りです。

ピアノ独奏： 2台
管弦楽： フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部（ヴァイオリン第1部、ヴァイオリン第2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽曲は伝統的な急-緩-急の3楽章構成をとっています。

第1楽章：アレグロ・ヴィヴァーチェ ホ長調 4/4拍子

活気に満ちたアレグロ・ヴィヴァーチェのテンポで開始されるこの楽章は、若きメンデルスゾーンの天真爛漫さ、そして明るく夢見るような感性がストレートに表現されています。瑞々しく輝かしい旋律が次々と現れ、聴く者を惹きつけます。この楽章には、独奏者による自由なカデンツァは設けられていません。

第2楽章：アダージョ・ノン・トロッポ ハ長調 6/8拍子

穏やかなアダージョ・ノン・トロッポで奏されるこの楽章は、ハ長調という主調から離れた調性で、静謐かつ抒情的な雰囲気を醸し出しています。ゆったりとした3拍子の流れの中で奏でられる楽想は、後に彼が得意とした「無言歌」を思わせる歌謡的な美しさを湛えています。

第3楽章：アレグロ ホ長調 4/4拍子

終楽章は再び主調であるホ長調に戻り、急速なアレグロのテンポで華やかに閉じられます。この楽章に見られる技巧的なパッセージや輝かしい展開は、同時代のヴィルトゥオーゾたちの作品にしばしば見られるスタイルを彷彿とさせます。躍動感あふれる音楽が展開され、全曲を力強く締めくくります。

まとめ

メンデルスゾーンの「2台のピアノのための協奏曲 ホ長調 MWV O5」は、神童と呼ばれた彼の初期の才能の煌めきを示す重要な作品です。若書きゆえの構成上の課題も指摘される一方で、瑞々しい楽想、姉との共演を想定した独特な書法など、興味深い要素を多く含んでいます。出版が遅れたためあまり広く知られてはいませんが、メンデルスゾーンの創作の出発点を知る上で欠かせない作品の一つと言えるでしょう。

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