2002年フランス大統領選挙

2002年フランス大統領選挙：ルペン・ショックとフランス社会の揺らぎ

2002年に行われたフランス大統領選挙は、第五共和政下で初めて大統領の任期が7年から5年に短縮された選挙として歴史に刻まれています。しかし、この選挙を記憶に残るものとしたのは、選挙結果そのものでした。世論調査では常に上位を占めていた社会党のジョスパン首相が第一回投票で敗退し、極右政党国民戦線のルペン党首が、現職大統領シラクとの決選投票に進むという、予想外の展開が起きたのです。この結果はフランス国内に衝撃を与え、国際社会にも大きな波紋を広げました。

選挙前夜の情勢

1995年から大統領の座にあったシラクは、右派政党・共和国連合に所属していました。一方、1997年の国民議会選挙では左派政党が多数を占め、社会党を中心とした左派連立政権が成立、いわゆる「コアビタシオン」（保革共存）の状態が続いていました。

選挙戦では、シラクとジョスパンの両氏が有力候補として認識され、世論調査でも高い支持率を得ていました。しかし、シラクにはパリ市長時代の汚職疑惑が尾を引き、ジョスパンも治安対策への対応が不十分だと批判されていました。一方、ルペンは当初は泡沫候補と見なされていましたが、選挙が近づくにつれ支持率をじわじわと伸ばしていきました。

第一回投票：予想外の敗北

2002年4月21日に行われた第一回投票。投票率は71.6%と、第五共和政下では最低を記録しました。有効投票数28,498,471票のうち、過半数を獲得した候補はいませんでした。シラクが得票率18.6%でトップでしたが、ルペンが得票率16.9%で2位となり、決選投票への進出を果たしたのです。ジョスパンの敗北は、フランス社会に大きな衝撃を与えました。

決選投票：ルペン・ショックと国民の抵抗

5月5日に行われた決選投票。投票率は79.7%と、第一回投票よりも高い数字を記録しました。シラクは得票率82.2%で圧勝し、ルペンの当選は阻止されました。しかし、極右候補が大統領選決選投票に進出した事実は、フランス社会に深い衝撃を与えたのです。ジョスパン首相は直ちに政界引退を表明しました。

ルペン進出への衝撃は、フランス国内にとどまりませんでした。フランス各地では、ルペン当選阻止を訴える大規模なデモが連日行われ、5月1日のメーデーには、フランス全土で130万人、パリだけでも40万人がデモに参加しました。一方、国民戦線も集会を開き、ルペン支持者2万人が集まりました。

左派支持者にとって、シラクへの投票は苦渋の決断でした。これまで対立してきた相手への投票を余儀なくされたのです。「ペテン師に投票せよ、ファシストではない」というスローガンが示すように、国民の心は複雑な思いで揺れ動いていたのです。

ルペン躍進の背景：様々な分析

選挙後、マスコミや世論調査機関はルペン躍進の背景について様々な分析を行いました。

コアビタシオン: 右派大統領と左派首相という共存状態が、国民の不満を極右・極左両極に集中的に流したという指摘があります。実際、極左候補の得票率も合わせて10%を超えていました。
治安対策: 治安悪化が社会問題化する中、強硬な治安対策を主張するルペンが支持を集めました。シラク陣営がジョスパン首相を治安対策に弱腰だと批判したことも、ルペンに有利に働いた側面があります。
* 失業対策: 移民排斥を訴えたルペンは、移民に職を奪われたと感じている失業者からの支持を得ました。世論調査機関IPSOSによると、失業者のルペン支持率は35%と、ジョスパンの13%を大きく上回っていました。

しかし、ルペンの得票数は前回選挙と比較して大幅に増加したわけではありませんでした。その要因として、低投票率や左派の候補者数の増加による票の分散などが挙げられています。第一回投票の低投票率は、多くの有権者が決選投票で意思を示せば十分と考えていたこと、そして、強固な組織を持つ政党に有利に働いたと分析されています。

2002年フランス大統領選挙は、フランス政治、ひいてはヨーロッパ政治に大きな影響を与えました。ルペン・ショックは、フランス社会の抱える問題、そして民主主義の脆さを改めて浮き彫りにしたのです。この選挙は、単なる選挙結果を超えた、フランス社会の転換点として記憶されています。

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