コアビタシオン

コアビタシオン：フランス政治における異質な共存

コアビタシオン（cohabitation）は、フランス語で「同居」「同棲」を意味する言葉ですが、政治学においては、フランス第五共和政特有の現象を指します。具体的には、大統領と首相が異なる政治勢力に所属し、共存する状態を意味します。

コアビタシオンの背景：第五共和政の政治構造

フランス第五共和政では、大統領は強力な権限を有しています。首相の任免権や議会解散権などがその代表例です。しかし、首相もまた、議会（下院）に対して責任を負う立場にあります。そのため、大統領の所属勢力と議会の多数派勢力が異なる場合、大統領は議会の信任を得られる人物を首相に選任する必要があります。これがコアビタシオンが発生する根本的な原因です。

コアビタシオン下の政治運営

コアビタシオンが発生すると、大統領の権限は相対的に縮小します。なぜなら、大統領の権限行使には首相の同意が必要となる場合が少なくないからです。例えば、法案拒否権の行使などが挙げられます。そのため、大統領は議会多数派の意向を尊重しつつ、首相との協調を図る必要に迫られます。

近年の事例：左右対立を超えた首相選任

2017年にエマニュエル・マクロンが大統領に就任して以降、フランスの政治状況は変化を見せています。共和党（共和国連合の後身）は議席数を減らしましたが、エドゥアール・フィリップ、ジャン・カステックス、ミシェル・バルニエといった共和党所属の人物が首相に選任されました。これは、大統領の所属勢力でも議会多数派でもない勢力から首相が選ばれるという、従来の左右対立の枠組みを超えた現象と言えます。

コアビタシオンがもたらす影響

コアビタシオンは、フランス政治に以下のような影響をもたらします。

政策決定の停滞: 大統領と首相の意見が対立した場合、政策決定が遅れる可能性があります。
政治的駆け引きの活発化: 大統領、首相、議会がそれぞれの立場から政治的な駆け引きを行うことで、政治が不安定になる可能性があります。
国民の政治不信: 政策決定の遅れや政治的駆け引きが頻発すると、国民の政治に対する不信感が高まる可能性があります。

まとめ

コアビタシオンは、フランス第五共和政の独特な政治構造が生み出した現象です。大統領と首相が異なる勢力に所属することで、政治運営に様々な影響を与えます。近年では、左右対立の枠組みを超えた首相選任も見られるようになり、コアビタシオンの形態も多様化しています。

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