2010年問題

2010年問題とは

2010年問題とは、2010年を中心に発生、または深刻化すると予測された複数の社会問題の総称です。特定の年に集中して発生する年問題の一種であり、複数の分野で異なる様相を見せました。

医薬品の特許切れ

製薬業界では、2010年前後に大型医薬品（ブロックバスター）の特許が一斉に満了し、各社の収益に大きな影響を与えることが懸念されました。

医薬品は特許制度によって保護されており、特許取得された構造の化合物は、一定期間（通常20年間）他社が製造・販売できません。しかし、特許期間満了後は、他社が同じ構造の医薬品（後発医薬品、ジェネリック医薬品）を製造・販売できるようになります。ジェネリック医薬品は、臨床試験にかかるコストが抑えられるため、先発品よりも安価に販売されます。

1990年代には多くの大型医薬品が開発され、製薬会社の収益を支えてきました。しかし、これらの医薬品の特許が2010年前後に切れ、ジェネリック医薬品に置き換わることで、開発企業の収益が大幅に減少することが予想されました。

製薬業界の特徴として、少ない商品数で大きな売上と利益を得ている点が挙げられます。そのため、大型医薬品の売上が減少すると、大手製薬会社であっても大きな打撃を受けます。特許切れによる収益減少を補うために新薬開発を進めようとしても、臨床試験の厳格化や新規医薬品ターゲットの枯渇といった問題が存在します。

アメリカ政府標準暗号の切替

アメリカ政府が使用する標準暗号から、旧式の暗号を廃止する問題も発生しました。これは、危険な暗号の使用を続けることによるリスクを回避し、安全性を向上させるための措置です。

現代の暗号の安全性は、計算量的安全性に基づいており、「理論上、解読に非現実的な時間を要する」ことが前提となっています。そのため、コンピュータの処理能力向上に合わせて、より強度の高い暗号方式に切り替える必要があります。

アメリカ国立標準技術研究所 (NIST) は2005年に、2010年12月31日をもって政府標準暗号から旧式の暗号を廃止することを決定しました。廃止された暗号は、80ビット強度以下のものです。

具体的には、2-key Triple DES (2TDES)、1024ビット鍵のRSA、1024ビット鍵のDSA、160ビット鍵のECDSA、SHA-1などが廃止されました。

日本でも、2013年を目処にアメリカと同程度の強度の暗号への切り替えが行われました。

ETA社の時計部品出荷制限

スウォッチ・グループの時計部品メーカーであるETA社が、2010年よりグループ外への部品出荷を制限したことも問題となりました。ETA社は、時計の中核部品であるモジュール（特にエボーシュと呼ばれる半完成モジュール）を製造しており、これまで外部の時計メーカーにも供給していました。

当初、2010年にエボーシュの外部出荷を完全に停止する予定でしたが、各時計メーカーからの抗議などを受け、2020年まで延期されました。ETA社のエボーシュを使用していた多くのスイスの時計メーカーは、この問題への対応を迫られ、セリタやソプロドといった、特許切れのETAムーブメントをコピーするメーカーの製品を採用するか、自社製ムーブメントを開発するという二極化が進みました。

年数処理のバグ

2010年に突入する頃、コンピュータなどの年数処理において、いくつかのバグが発見されました。

シチズンの電波腕時計「ワールドタイムシリーズ」で、日付が2016年と誤判定される。
オーストラリア・クィーンズランド銀行の金融システムで、日付が2016年と誤判定される。
ドイツジェムアルト社のICカードが使用不能になる。
ソニーのゲーム機「プレイステーション3」で、2010年を閏年と誤判定される。

これらのバグは、年の内部表現に西暦下2桁のBCD (Binary-Coded Decimal) を使用していた場合に発生しやすいものでした。例えば、2010年の内部表現であるBCDの 0x10 を、数値の16として扱ってしまうことで、誤判定が生じたと考えられます。

まとめ

2010年問題は、医薬品業界、情報セキュリティ、時計産業、そしてコンピュータシステムなど、様々な分野に影響を及ぼしました。これらの問題は、技術の進歩や社会の変化に対応していく上で、企業や組織が抱える課題を浮き彫りにしました。2010年問題は、社会全体が将来を見据え、適切な対策を講じることの重要性を示す教訓となりました。

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