2018年名護市長選挙

選挙の概要

2018年1月28日に告示され、同年2月4日に投開票が行われた名護市長選挙は、当時の市長、稲嶺進氏の任期満了に伴うものでした。沖縄県名護市は、アメリカ軍普天間飛行場の移設先とされる辺野古を抱えており、この選挙は基地移設問題を巡る日本の安倍政権と、移設反対を掲げる沖縄県の翁長雄志知事が率いる「オール沖縄」勢力との間で、「代理戦争」と位置づけられました。同年秋に控えていた沖縄県知事選挙の前哨戦としても捉えられ、両陣営が国政選挙並みの総力戦を展開した結果、全国的な関心を集めることとなりました。

候補者と選挙戦の経緯

この選挙には、現職で3期目を目指す稲嶺進氏と、名護市議会議員で新人となる渡具知武豊氏が立候補しました。稲嶺氏は辺野古への基地移設に反対の立場を明確にし、「オール沖縄」勢力や共産党、社民党などの支持を受けました。一方、渡具知氏は移設容認の姿勢を示唆しつつ、自由民主党、公明党、日本維新の会からの推薦を得て出馬しました。渡具知氏の擁立を巡っては、当初自民党内で難色を示す動きもありましたが、候補者選定が難航した末、推薦が決定しました。選挙戦では、渡具知陣営に当時の自民党幹事長や内閣官房長官、筆頭副幹事長といった政権中枢の人物が応援に入り、辺野古移設問題そのものよりも名護のまちづくりや政策論争を前面に押し出す戦略をとりました。特に公明党は、前回選挙で投票先が分かれていたとされる支持層を渡具知氏に一本化し、支持母体である創価学会も動員するなど、組織的な支援を展開しました。対する稲嶺陣営も、翁長知事や共産党委員長、自由党代表といった「オール沖縄」および野党の要人が応援に駆けつけ、一貫して基地移設反対を訴えました。

選挙結果とその意味

2018年2月4日に行われた投開票の結果、新人の渡具知武豊氏が現職の稲嶺進氏を破り、初当選を果たしました。この結果は、辺野古移設反対を「地元の民意」の根拠としてきた「オール沖縄」勢力や翁長知事にとって大きな痛手となりました。選挙の最終投票率は76.92%と前回から微増し、特に期日前投票者数は過去最多を記録するなど、市民の高い関心を示すものでした。

争点の行方と選挙の背景

選挙の最大の争点となるはずだった辺野古への基地移設問題に対し、稲嶺氏は明確な反対姿勢を示し続け、パンダ誘致といった独自の公約も掲げました。一方、渡具知氏は移設問題について「国と県の裁判を見守る」とし、争点化を避け、市民生活の向上や経済振興を主な訴えとしました。

選挙戦を読み解く

この選挙では、公職選挙法違反の報告が多数寄せられ、違法な幟やビラの設置など、選挙運動における課題も浮き彫りになりました。警察による警告は69件に上り、選挙後も違反物が残る状況が見られました。当選後の渡具知氏の発言からは、「複雑な民意が示された」「国にべったりとはいかない」といった姿勢が見て取れ、支持層の中にも移設反対の声が含まれていることへの配慮がうかがえました。メディアの分析では、世論調査で移設反対派が多数を占めていたにもかかわらず稲嶺氏が落選したことについて、「民主主義の敗北」や「外堀を埋める」政府の戦術によるものといった批判的な論調が見られました。しかし、出口調査からは、調査時の雰囲気や他の政策への考慮といった、移設問題以外の要素が投票行動に影響した可能性や、世代による支持の分断（60代以上は稲嶺氏、50代以下は渡具知氏支持多数）が明らかになりました。特に、新聞離れが進む若い世代がインターネットなどから独自に情報を得て判断したことが、結果に影響したとの見方もあります。

勝敗を分けた要因

選挙結果の背景には複数の要因が指摘されています。公明党や日本維新の会の推薦を得たことが渡具知氏の得票につながったこと。長引く基地問題への「辺野古疲れ」が市民に見られたこと（同時に行われた市議補選でも反基地候補が敗北）。有権者が基地問題よりも生活や経済対策を重視した傾向。保革相乗りで支持層に主張の隔たりがあった「オール沖縄」の組織的な課題。応援弁士の訴求力の差（生活に根差した小泉進次郎氏の演説に対し、基地問題・政権批判に終始した稲嶺陣営の弁士）。若者を中心とした渡具知陣営のSNS活用による情報拡散能力。そして、稲嶺氏のパンダ誘致公約への疑問（実現性や費用面の説明不足、後援会との連携不足）。さらに、前回選挙での圧勝による稲嶺陣営の慢心や、事前の世論調査における高い回答拒否率といった要素も、結果を予測しづらくした要因として挙げられています。

これらの複合的な要因が絡み合い、2018年の名護市長選挙は、単なる基地問題の賛否を超えた複雑な選挙戦となり、最終的に渡具知氏の当選という結果をもたらしました。

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