2019年アマゾン熱帯雨林火災

概要と火災件数の増加

2019年、ブラジルを含むアマゾンの広大な熱帯雨林地域で、森林火災の発生件数が著しく増加しました。特にブラジル国立宇宙研究所（INPE）の報告によれば、2019年8月には前年の同時期と比べて火災件数が8割以上増加していることが判明しました。専門家の間では、ジャイール・ボルソナーロ氏が大統領に就任した2019年1月以降に、火災件数の増加が加速したとの指摘がなされました。

火災の影響は局地的にとどまらず、発生地から約3200キロメートル離れたブラジルの主要都市サンパウロの上空でも、分厚い煙によって空が覆われるほどでした。また、火災に関連する停電も報告されました。

火災原因と政府の見解

ブラジル環境省は、アマゾン北部の広範囲や中央部から東部にかけての地域で見られた自然乾燥が火災の主な原因であるとの見方を示しました。しかし、INPEはこの主張に異を唱え、「今年の気候に異常はなく、雨量も例年と比較してわずかに少ない程度だ」と述べ、気候的な要因のみでは説明できない可能性を示唆しました。

火災の発生初期において、ボルソナーロ大統領は消火活動を含む積極的な対応に消極的な姿勢を示しました。大統領選でボルソナーロ氏と争ったフェルナンド・アダジ氏が、同氏の当選がアマゾン地域の崩壊につながると警告していたことや、メディアが大統領の開発重視・環境軽視の姿勢を火災拡大の原因と関連付けたことも、議論を深めました。

ブラジル政府の対応と論争

ボルソナーロ大統領は、ブラジル国内での森林伐採増加を報告したINPEの所長であるリカルド・ガルヴァン氏を解任しました。また、2019年8月21日には、政府の財源削減によって不満を抱いた民間公益団体（NGO）が、政権の評判を落とすために放火している可能性があるという、根拠の不確かな発言を行い、国内外で批判を浴びました。

森林火災の件数についても、大統領は過去15年間の平均値に近いと主張し、火災は「伝統的に暑く乾燥した時期」における自然な現象であると強調しました。これに対し、INPEは今回の火災を通常の乾季の火災と同一視すべきではないとし、2019年1月から8月21日までの火災件数が前年同期を大幅に上回る約7万5千件に達していることを示しました。一方、アメリカ航空宇宙局（NASA）の初期の報告は、ボルソナーロ氏の主張と同様に平均値に近いというものでしたが、その後の詳細なデータ分析により、「2019年の火災は、2010年以降で最も活発」であったと修正・発表されました。

国際社会の反応

環境保護を重視するヨーロッパ諸国を中心に、ブラジルの対応に対する懸念が表明されました。これにより、ブラジル大統領は8月23日、火災対処のためにブラジル軍の派遣を許可する大統領令を発令しました。この問題は、フランスで開催された主要国首脳会議（G7サミット）でも議題となりましたが、ボルソナーロ大統領は当事国抜きでの議論は「植民地主義的思考」であるとして反発しました。G7から提案された1800万ユーロの資金援助についても、大統領はフランスのマクロン大統領を引き合いに出し、「ノートルダム大聖堂の火災すら防げなかったマクロン氏に言われる筋合いはない」として拒否する姿勢を示しました。さらに、SNS上での個人的なやり取りにおいても、両大統領の間で緊張が生じました。

欧州連合（EU）諸国からは、環境問題への懸念からブラジルに対する貿易措置を示唆する動きも見られました。フランスやアイルランドは、EUと南米の関税同盟メルコスールとの貿易協定停止の可能性に言及し、フィンランドはブラジル産牛肉の輸入禁止を提案するなど、経済的な圧力となる可能性が浮上しました。

マクロン大統領をはじめ、世界の著名人や日本の芸能人も、アマゾン火災への懸念をSNS上で発信しました。しかし、その際に使用された画像が、過去の火災のものであるケースが混同して用いられている事例が多数見られ、災害に関する情報がSNS上で拡散される際の情報の正確性の問題が浮き彫りとなりました。

ブラジルの対応と国内の反応

ボルソナーロ大統領は、国際社会からの批判、特にマクロン大統領の環境保護に関する発言に対して、アマゾンの主権はブラジルにあると強調し、強く反発しました。一方、環境問題への関心が比較的低いとされるアメリカのトランプ大統領は、ブラジル政府の対応を「素晴らしい仕事をしている」と支持する姿勢をツイッターで示しました。

国内では、ボルソナーロ大統領の支持率に影響が出始めました。2019年2月には30％以下だった不支持率が、8月には50％を超える水準に上昇しました。また、世論調査によれば、ブラジル国民の大多数が環境保護や先住民保護区での鉱業開発に反対していることが示されました。

ブラジル政府は8月29日、原則として60日間の野焼き禁止を命じる大統領令を発令し、違法行為への取り締まりを示唆しました。また、国際社会からの消火活動への協力も受け入れ、アメリカ、日本、チリ、イスラエルなどからの支援を受けました。

9月23日、ニューヨークで開催された国連気候サミットでの演説で、ボルソナーロ大統領はアマゾンの森林火災に関する報道を「詐欺」であると断じ、メディアやマクロン大統領を非難しました。さらに、ブラジル国内に西ヨーロッパよりも大きな手つかずの森林が残っていることを根拠に、ブラジルが環境保護に力を入れている国の一つであると主張しました。大統領は一貫して、森林火災はブラジルの国内問題であり、他国からの批判は主権への侵害にあたると訴え、保護区の存続についても疑問を呈する考えを示しました。この出来事は、環境問題と国家主権、そして国際協力のあり方について、世界的な議論を巻き起こしました。

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