2019年パイパー PA-46墜落事故

2019年パイパーPA-46墜落事故の概要

2019年1月21日、フランスのナントからウェールズのカーディフへ向かっていたパイパーPA-46型機が、イギリス海峡のオルダニー島沖に墜落しました。この事故では、パイロットが消息不明となり、搭乗していたサッカー選手のエミリアーノ・サラが死亡するという痛ましい結果となりました。

事故の経緯

事故当日、サラ選手を乗せた飛行機は、ナント・アトランティック空港を離陸し、カーディフ空港へ向かう予定でした。飛行中、パイロットは有視界気象状態を維持するため、高度を5,000フィートから2,500フィートへ変更することを要請しました。最後の交信時、機体は高度2,300フィート付近を飛行していましたが、その後レーダーから機影が消失しました。

サラ選手は、飛行中に家族へ不安を伝える音声メッセージを送っていました。その内容は「ボロボロの飛行機に乗っている。もし1時間半以内に連絡がなかったら、救助が必要かもしれない。怖くなってきた」というものでした。

サラ選手の搭乗までの背景

サラ選手は、事故の2日前にFCナントからカーディフ・シティFCへの移籍契約を締結していました。契約後、サラ選手はチームメイトに別れを告げるためナントへ戻り、その後カーディフへ向かう予定でした。クラブ側は商用便を用意していましたが、サラ選手はそれを断り、別の便を手配しました。翌朝にはチームの練習に参加する予定でした。

手配された事故機は、サラ選手の代理人が関与したものでしたが、代理人は使用機材やパイロットの人選には関わっていないと主張しています。当初、別のベテランパイロットが担当する予定でしたが、直前で変更されました。このフライトは、当初1月21日9時に離陸予定でしたが、遅延が生じていました。

事故機について

事故機は、米国登録のパイパーPA-46型機で、単発ピストンエンジンを搭載した6人乗り軽飛行機でした。1984年に製造され、機体番号はN264DBです。事故機は英国のサザン・エアクラフト・コンサルタントに登録されていました。

初動捜索活動

事故発生後、捜索救助活動が開始されましたが、悪天候のため一時中断されました。イギリス沿岸警備隊はヘリコプター2機を派遣し、オルダニー島とガーンジー島が救命艇を派遣、さらにフランスもヘリコプター1機と海軍艦船1隻を派遣しました。捜索は合計2,991平方キロメートルに及びましたが、機体の痕跡は発見されませんでした。

捜索活動は一度打ち切られましたが、サラ選手の家族が募金を呼びかけ、民間組織による捜索が再開されました。海洋科学者のデイビッド・マーンズが指揮を執り、遠隔操作型の無人潜水機を装備した調査船が投入されました。

捜索再開と発見

イギリス航空事故調査局（AAIB）は、事故機の可能性が高いシートクッションを発見し、捜索範囲を絞り込みました。AAIBは調査船Geo Ocean IIIを派遣し、民間捜索隊と共同で捜索を開始しました。2月3日、機影が最後に確認された地点から約1km離れた海底で、事故機の残骸が発見されました。残骸は水深67メートルにあり、サラ選手とパイロットが取り残されている可能性がありました。

2月4日、AAIBは無人潜水機で機体番号を確認し、機内に遺体が残されていることを確認しました。2月7日、遺体が収容され、サラ選手であることが特定されました。サラ選手の死因は「頭と胴体の負傷」とされました。パイロットの遺体は発見されませんでした。

事故調査

イギリス航空事故調査局（AAIB）が事故原因の調査を開始しました。調査には、アメリカ国家交通安全委員会（NTSB）とフランス航空事故調査局（BEA）も協力しました。

調査の結果、パイロットは自家用操縦士の免許は持っていたものの、商用飛行に必要な免許は持っていなかったことが判明しました。また、パイロットは色覚異常があり、夜間飛行の資格を喪失していました。さらに、機体の計器着陸装置に不具合があった可能性も指摘されています。

サラ選手の検死結果から、血中カルボキシヘモグロビン濃度が非常に高く、一酸化炭素中毒が死因に関わっていた可能性が示唆されました。AAIBは、パイロットも同様の一酸化炭素中毒に陥っていた可能性があるとしています。

最終報告

AAIBは、2020年3月13日に最終報告書を発表しました。事故原因は、商業飛行免許を持たないパイロットが、悪天候を回避しようとして不適切な操縦を行った結果、機体が制御不能となり空中分解したことであると結論付けられました。機体にはオートパイロットの不具合があり、運行許可も得られていませんでした。さらに、パイロットが違法な報酬を受け取っていたこと、一酸化炭素中毒により認識力が低下していたことも判明しました。一酸化炭素は、テールパイプかマフラーの破損により客室の暖房空気へ混入した可能性が高いとされています。

事故関連の逮捕者

事故後、サラ選手の遺体写真をSNSに投稿した2人が逮捕されました。また、遺体安置所の監視カメラ映像を不正に取得し、遺体写真を漏洩させたとして、警備会社の従業員2人が有罪判決を受けました。

事故に関与したとして、過失致死の疑いで64歳の男が逮捕されましたが、その後不起訴処分となりました。この男は機材を手配したパイロットで、当初フライトを担当する予定だった人物と報道されています。

2021年11月には、機材を手配したパイロットが安全規則を無視した罪で禁錮1年6月の判決を受けました。

結論

2019年のパイパーPA-46墜落事故は、パイロットの資格不足、機体の不備、悪天候、一酸化炭素中毒など、複数の要因が複合的に重なった悲劇でした。この事故は、航空機の安全管理に関する重要な教訓を残しました。

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