2021年ミャンマークーデター抗議デモ

2021年のミャンマークーデター抗議デモは、同年に発生したミャンマー国軍による軍事クーデターに対し、民主主義の回復を求める市民が、国内外で展開した広範な抵抗運動のうち、特にデモ活動に焦点を当てたものです。

背景

事の発端は、2020年11月8日に実施された総選挙に遡ります。この選挙で、アウンサン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟（NLD）が圧倒的な勝利を収めた一方、連邦団結発展党（USDP）は大きく議席を減らしました。しかし、国軍は選挙に不正があったと一方的に主張し、2021年2月1日、アウンサン・スー・チー氏らを拘束する軍事クーデターを決行。1年間の非常事態宣言を発令し、権力を掌握しました。

特徴と情報統制

この抗議活動の大きな特徴の一つは、ソーシャルメディアをはじめとするインターネットツールの積極的な活用でした。デモ参加者はこれらのプラットフォームを通じて情報収集や共有を行い、見ず知らずの若者たちが連携して、特定の記念日などにゲリラ的な抗議行動を展開しました。

これに対し、国軍側は抵抗運動を封じ込めようと、インターネット接続の繰り返し遮断を試みました。デモ参加者が主要な情報源としていたTwitterやFacebookなどへの接続は不安定化しました。さらに、抗議活動を支持するハッカー集団は、「ミャンマーの正義」を掲げ、国営放送や中央銀行、軍のプロパガンダ関連サイトへのサイバー攻撃を試みるなど、情報戦も繰り広げられました。

抗議活動の推移と弾圧

クーデター発生直後の2月、通信遮断が発生する中で、各地で大規模な抗議デモが始まりました。首都ネピドーや最大都市ヤンゴンなどでは、集会禁止令にもかかわらず数万人が街頭に繰り出し、民主主義の回復や指導者の解放を訴えました。治安部隊は当初、放水砲や催涙ガス、ゴム弾などで対応しましたが、次第に実力行使はエスカレートしました。2月9日にはデモ参加者の女性が頭部に重傷を負い、これが抗議活動における初の死者（ミャ・トゥエ・トゥエ・カイン氏）として2月19日に確認されました。2月20日には実弾使用による死傷者も発生するなど、暴力による弾圧が本格化しました。

3月に入ると、治安部隊による弾圧はさらに激化します。3月3日には各地での発砲により、子供4人を含む少なくとも38人が死亡し、クーデター発生以降の死者は50人を超えました。報道機関への圧力も強まり、複数の国内メディアが免許を取り消されましたが、一部は報道継続を表明しました。また、NLDのメンバーが拘束後に死亡する事例も複数報告されました。3月27日の国軍記念日には、各地で行われた大規模デモに対し国軍は激しい武力弾圧を行い、この日だけで100人を超える死者が出たことが報じられました。

4月以降も抗議活動と弾圧は続き、各地で衝突が発生しました。4月9日にはバゴーでデモ隊と国軍が衝突し多数の死者が出ましたが、この衝突に関する情報には食い違いも見られました。また、外国人ジャーナリストや映像作家が取材中に拘束される事案も発生しました。一方、日本や欧米を含む世界各地の在外ミャンマー人も連帯し、抗議デモを実施しました。市民の犠牲者は累計で増加し続けました。

ソーシャルパニッシュメント

抗議活動の別の側面として、「ソーシャルパニッシュメント」と呼ばれる動きも見られました。これは、国軍関係者の写真などをSNSで晒し、誹謗中傷を行う行為です。当初は軍関係者が標的でしたが、次第に市民不服従運動（CDM）に参加しない医療関係者や、武力闘争に否定的な人々にも対象が拡大しました。日本でも、国軍将校の家族に対する嫌がらせ行為が発生しました。

国際社会の反応

国際社会はミャンマー国軍の行動に対し、強い懸念や非難を表明しました。国連事務総長はクーデターの失敗に向けた努力を表明し、イギリスやアメリカは制裁措置の検討や実行を示唆しました。日本も民主化プロセスの損なわれた状況に重大な懸念を示しました。特に、3月27日の激しい弾圧後には、日本を含む12か国の軍隊制服組トップが共同で、丸腰の市民に対する殺傷力の高い武器の使用を非難する声明を発表しました。

これらのデモ活動は、ミャンマー国民が民主主義への強い意志を示したものであり、国軍による権力掌握に対する明確な抵抗運動として、世界中にその状況が伝えられました。

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