60口径三年式15.5cm3連装砲

60口径三年式15.5cm3連装砲は、大日本帝国海軍が設計・開発した画期的な艦載砲です。主に巡洋艦の主砲として誕生し、後に戦艦の副砲などにも転用され、太平洋戦争中の日本海軍の主要な兵装の一つとなりました。

開発の背景

この砲の開発は、1930年に締結されたロンドン海軍軍縮条約と深く関わっています。この条約は、各国の保有できる巡洋艦の総トン数を制限するとともに、主砲口径が6.1インチ（約15.5cm）を超える艦を重巡洋艦、それ以下の艦を軽巡洋艦と定義し、それぞれのカテゴリーにも保有枠を設けました。当時の日本海軍は、既に保有・建造中の艦によって重巡洋艦の保有枠がほぼ上限に達しており、これ以上の重巡新造が困難な状況でした。一方で、軽巡洋艦の保有枠には余裕があり、さらに軽巡洋艦については搭載する主砲門数に制限がありませんでした。この条約の規定を最大限に利用し、制限の緩い軽巡洋艦の枠組みの中で、実質的には重巡洋艦に匹敵する攻撃力を持つ艦を建造する計画が日本海軍内で浮上します。この計画において、条約で許容される最大の口径である15.5cm砲を多数搭載することで、単発威力ではなく、単位時間あたりに発射できる砲弾の総重量、すなわち「投射弾量」において、ライバル国の重巡洋艦を凌駕することを目指しました。この戦略に基づき、日本海軍初の3連装艦載砲として、最上型軽巡洋艦の主砲用に開発されたのが、この60口径三年式15.5cm3連装砲でした。

特徴と性能

最上型巡洋艦には、この15.5cm3連装砲塔が5基、合計15門搭載されました。これにより、当時の一般的な重巡洋艦（20.3cm砲を9～10門搭載）と比較して、一発の威力では劣るものの、投射弾量では優位に立つことが可能となりました。
この砲の際立った特徴は、当時の艦載砲としては異例ともいえる60口径という極めて長い砲身を採用したことです。これは、より大口径の20.3cm砲に匹敵する長大な射程（最大約27,400m）を実現するために不可欠でした。砲身内の最大圧力も日本海軍の砲で最も高い水準に達し、砲弾の初速も非常に高速でしたが、その高い性能と引き換えに、砲身の寿命はわずか250～300発と極めて短命でした。長い砲身は命中精度が低下しやすい傾向がありますが、この砲では砲身製造に当時としては先進的な自緊式を採用することで、高い射撃精度（狭い散布界）を実現しました。これらの性能に加え、操作性も優れていたことから、本砲は砲術関係者から傑作艦砲として高く評価されました。しかし、高性能ゆえに砲塔全体の重量は、重巡洋艦が搭載する20.3cm連装砲塔と同等かそれ以上にもなり、最上型より軽量な後続の軽巡洋艦、例えば阿賀野型などでは搭載が困難となり、より軽量な旧式砲が採用される一因となりました。砲塔の装甲厚は全周25mmで、これは砲弾の破片を防ぐ程度の防御力でした。

その後の運用

最上型巡洋艦は、ロンドン海軍軍縮条約が失効した後、当初から計画されていたともいわれる重巡洋艦への改装工事を受け、主砲を20.3cm連装砲塔に換装しました。この換装は当初から前提とされていたという見方が一般的ですが、15.5cm砲塔と20.3cm砲塔では旋回部の直径に大きな違いがあるなど、不自然な点も存在し、議論の余地を残しています。最上型から撤去された15.5cm3連装砲は、単に廃棄されることなく、有効活用されました。特に有名な転用先としては、世界最大の戦艦である大和型戦艦の副砲、そして強力な通信能力を持つ軽巡洋艦大淀の主砲があります。これらの主要艦への搭載からさらに余剰となった砲も、遊休化させることなく、陸上に設置されて高角砲台として運用されるなど、終戦に至るまで多岐にわたって活用されました。例えば、広島県呉市郊外や長崎県針尾島などに高角砲台として設置されたことが確認されています。

主な搭載艦船

戦艦：大和型（副砲として）
巡洋艦：最上型（主砲として）、大淀（主砲として）

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