9K330

9K330 トール - 中短距離防空ミサイルシステム

9K330 トール（ロシア語: 9К330 «Тор»）は、ソビエト連邦が開発した中空〜低空域向けの短距離防空ミサイルシステムです。NATOではSA-15もしくはSA-N-9というコードネームで呼ばれ、愛称はロシア語で「トーラス」を意味します。派生型には、9K331、9K332などがあります。

開発背景

このシステムは、1975年にソ連共産党中央委員会と閣僚会議によって開発が指示されました。航空機による脅威が増大する中で、既存の9K33 オサー（NATOコード名: SA-8 ゲッコー）を代替する形での開発が求められました。1983年に開発が完了し、実用試験が実施され、その結果高い性能を示したため、1986年にソ連軍に正式採用され、量産が始まりました。

設計と特徴

車体

9K330のベースは、GM-569A装甲装軌車両であり、全備重量は32トンです。このシステムは、複数の車両に分かれた指揮・レーダー・ランチャーの編成を必要とせず、すべての装置が車両の中央にまとめられているため、単独運用が可能です。特に9K332 トールM2型では、移動中でも射撃が可能です。

レーダー

2種類のレーダーを搭載しており、後方に取り付けられた「ドッグイア」E/F-band 捜索レーダーは最大25kmで目標を探知可能です。さらに9K331M トールM1からは電子走査式となり、多数の目標を追尾できる能力が向上しています。ターレット前面には「スクラムハーフ」という誘導レーダーが装備され、最大20kmの追尾が可能です。

ミサイル

搭載されるミサイルは9M330と9M331であり、各ミサイルは赤外線やレーダー、TVによる指令誘導を併用しています。9M330は、20m上空までコールド・ローンチ方式で射出され、その後目標に誘導されます。これにより、一般的な航空機だけでなく、無人機や巡航ミサイルへの対応も可能です。命中率は26〜75%とされ、特に西側の攻撃ヘリコプターへの迎撃能力が重視されています。

運用

乗員は4名で構成され、以前のモデルよりも自動化が進んでいます。9K330対空ミサイルシステムは、通常4両で編成される中隊や、その支援のための各種車両が必要です。また、固定式発射装置や装輪車両の提案も行われています。

輸出と派生型

9K330は、旧ソ連の国々をはじめ、1999年にはギリシャ陸軍、2000年には中国陸軍に配備されています。他にも、多くの国に輸出されており、一定の販売実績を上げています。派生型には、9K331 トールMや9K332 トールM2など様々な種類があり、各国の防空ニーズに応じた設計がなされています。

事件と影響

2020年には、ウクライナ国際航空752便が9K330によって撃墜される事件が発生しました。この事件は国際的な議論を巻き起こし、イスラム革命防衛隊が後に誤射であったことを認めています。これにより、9K330の運用に関する課題が浮き彫りとなりました。

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