A (ジェスロ・タルのアルバム)

ジェスロ・タルの13作目のスタジオアルバム『A』は、1980年のリリースと同時に大きな話題を呼びました。当初は、バンドのフロントマンであるイアン・アンダーソンによるソロプロジェクトとして構想された本作ですが、最終的にはジェスロ・タル名義で発表されることとなります。

このアルバム制作には、複数の著名なミュージシャンが参加しています。キーボードとエレクトリックヴァイオリンを担当したエディ・ジョブソンは、カーヴド・エア、ロキシー・ミュージック、フランク・ザッパ・バンド、そしてUKといった、錚々たるバンドでの活動で知られる名手です。さらに、フェアポート・コンヴェンションのベーシストであるデイヴ・ペグ、そしてジョブソンの友人であるマーク・クレイニー（ドラムス）も参加しました。ジェスロ・タルの正式メンバーであるマーティン・バー（ギター）もレコーディングに参加し、楽曲に深みを与えています。

『A』の特徴として、アンダーソンがアコースティックギターを全く演奏していないことが挙げられます。それまでのジェスロ・タル作品とは異なる、エレクトリック・サウンドを重視したサウンドプロデュースは、バンドの新たな一面を示すものとなりました。この大胆な試みは、バンドの音楽性を進化させる上で重要な役割を果たしました。

本作のリリースに関わっては、ジェスロ・タルの所属レーベルであるクリサリス・レコードの判断が大きく影響しました。レーベルの決定により、アンダーソンのソロアルバムとしてではなく、バンド名義でのリリースとなったのです。また、このアルバム発表前後には、バンドメンバーの変動がありました。ジョン・エヴァン、デヴィッド・パーマー、バリモア・バーロウの3人が正式に脱退し、バンドは新たなフェーズへと移行することになります。ただし、パーマーは後に短期間バンドに復帰しています。

ジョブソンとクレイニーは、当初から本作への参加は短期間のゲスト出演という意図でした。アルバムの裏ジャケットには「スペシャル・ゲスト」としてクレジットされています。そして、本作に伴うツアー終了後、2人はジェスロ・タルを離れます。一方、ペグはその後も1995年まで、フェアポート・コンヴェンションとの並行してジェスロ・タルのメンバーとして活躍を続けます。

アルバム『A』は全9曲で構成されており、全楽曲がイアン・アンダーソンによって作曲されました。9曲目「パイン・マーチンのジグ」はインストゥルメンタルとなっています。このアルバムは、バンドの音楽性の多様性と、アンダーソンの音楽探求の深さを示す、重要な作品として高い評価を受けています。ゲストミュージシャンの卓越した演奏と、バンドメンバーの化学反応が織りなすサウンドは、聴く者を魅了する魅力に満ち溢れています。ジェスロ・タルの歴史において、『A』は、変革と進化の時代を象徴する作品として、これからも語り継がれていくことでしょう。

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