AGS・JH24

AGS JH24：1989年シーズンの悲劇

1989年、フォーミュラ1の世界に、AGSチームによって製作された1台のマシンが登場した。その名はAGS・JH24。しかし、このマシンは、チームにとって大きな失望をもたらすこととなる。なぜなら、JH24は1989年シーズンを通して、予選にすら進むことができなかったからだ。その背景には、チームを取り巻く様々な要因が複雑に絡み合っていた。

混乱のチーム状況

1988年から1989年にかけて、AGSチームは深刻な変化の波に襲われた。1988年末、創設者であるアンリ・ジュリアンはチームを、起業家のシリル・ド・ルーブルに売却した。このオーナー交代は、チームの組織構造に大きな影響を与えた。さらに、数ヶ月前には長年チームを支えてきたデザイナー、クリスチャン・バンダープレインがイタリアのコローニに移籍。バンダープレインは1970年からAGSの全てのレーシングカーを設計してきた人物であったため、その喪失はチームにとって大きな痛手となった。

後任のデザイナーとして迎えられたのは、リジェで失敗作JS31の開発に携わったことで解任されたクロード・ギャロパンだった。ギャロパンはJH24の設計を担当することになるが、チームの所有権変更の影響もあり、開発は遅延。完成は1989年の夏までずれ込み、チームは前半戦を前年のモデルJH23Bで戦うこととなった。

JH24の開発：コンパクトさと技術的課題

ギャロパンが設計したJH24は、モノコックを再設計し、カーボンファイバーコンポジットを採用することで剛性を高めた。車体はコンパクトに設計され、ホイールベースは2794mmと、1989年シーズンF1マシン中最短を誇った。エンジンは従来モデルよりも2.5cm低く搭載され、これは重量配分とハンドリングに有利に働いた。サスペンションは当初、JH23Bと同様のものが採用されたものの、これは後にJH25にも受け継がれた。

ボディデザインも一新され、尖ったノーズと低いコクピット、そしてドライバーの頭上に空気取り入れ口を持つエンジンカバーが特徴的なデザインとなった。エンジンはコスワースDFR、トランスミッションは6速を採用。このトランスミッションは1989年6月に完成し、JH23Bに搭載されて既にデビューしていた。

しかし、JH24は技術的に未熟な部分も多く抱えていた。エンジン冷却システムは容量不足で、ほとんどのレースで冷却問題が発生。ブレーキにも深刻な欠点があった。3台が製造されたJH24は、シャシーナンバー037、038、039として記録されている。

予選落ちの連鎖：レース戦績とその後

1989年シーズン、AGSはフィリップ・ストレイフとヨアヒム・ヴィンケルホックをドライバーとして迎えたが、ストレイフは開幕前のテストで大きなクラッシュを経験し離脱。その後任としてガブリエル・タルキーニが起用された。ヴィンケルホックも予備予選で苦戦し、8戦目からはヤニック・ダルマスに交代した。

参加台数の増加により導入された予備予選は、AGSにとって大きな障壁となった。前半戦は1台のみが予備予選対象だったが、成績不振のため、後半戦は2台とも予備予選対象に降格。JH24は7月に完成しイギリスGPでデビューしたものの、予選落ち。シーズンを通してマシンの問題を解決することはできず、限られた予算の中でのテスト不足も開発を阻んだ。

1990年シーズンもタルキーニとダルマス体制でスタートし、序盤2戦はJH24のサスペンションを改良したJH24Bを使用。ダルマスはブラジルGPで決勝進出を果たしたが、サスペンショントラブルでリタイアした。その後、JH25にマシンが切り替わることとなる。JH24は、全戦予選落ちという結果に終わった。

JH24のその後

製造された3台のうち2台は、AGSレーシングスクールで使用された。ウェブサイトの情報によれば、2012年時点で5台のJH24が存在していたという。

AGS JH24は、チームの混乱期に作られた、残念ながら成功しなかったマシンとしてF1の歴史に刻まれている。しかし、その開発経緯や技術的な課題、そしてレース戦績を知ることで、F1マシンの開発における様々な要素がいかに重要であるかを改めて認識することができるだろう。

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