ALARM (ミサイル)

ALARM（アラーム）

ALARMは、欧州のミサイル開発企業MBDA社が手掛けた空中発射式対レーダーミサイルです。その名称は「Air Launched Anti-Radiation Missile」（空中発射対レーダーミサイル）の頭文字を取ったもので、主な目的は、敵の防空システムの中枢であるレーダー施設を破壊し、敵防空網を無力化すること（SEAD; Suppression of Enemy Air Defence）にあります。

開発と配備の経緯

このミサイルは、イギリス空軍が運用していたマーテル・ミサイルの後継として開発されました。開発はMBDA社によって行われ、イギリス空軍だけでなく、サウジアラビア空軍でも採用されています。

当初、1986年に配備が予定されていましたが、ロケット・モーターに不具合が見つかったため、開発は遅延しました。改修作業が終了したのは1990年で、ちょうど湾岸戦争が勃発した時期と重なりました。この戦争において、ALARMはトーネード GR.1攻撃機に搭載され、初めて実戦投入されています。

1997年からは、ALARMの寿命延長と性能向上を図るための改修計画「ALARM II」の研究が開始されました。ALARM IIは、ロケットやシーカー（目標探知部）などが改良され、2001年に配備が始まりました。イラク戦争では、主にトーネード GR.4に搭載されて使用され、少数のトーネード F.3戦闘機からも発射されています。イギリス空軍におけるALARMの運用は2013年に終了し、全機が退役しました。

特徴

ALARMは、その役割においてアメリカ製のAGM-88 HARMと類似していますが、レーダー目標に対する攻撃方法において独自の特徴を持ちます。ALARMの最も際立った能力は、単なる撃ちっぱなし機能に加え、目標レーダーの再起動を待つ「滞空能力」を有している点です。

「滞空モード」を選択した場合、ALARMは発射後、目標のレーダーが一時的に停止しても追尾を諦めません。まず高度約13kmまで上昇し、そこでパラシュートを展開。目標のレーダーが再び稼働するまで、ゆっくりと降下しながら空中を漂って待機します。レーダーが再起動されたのを感知すると、ALARMはパラシュートを切り離し、第二段目のロケット・モーターを点火して目標へ突入・攻撃します。

ミサイルの形状は、先端、中央、後部の3箇所にフィンを持ちます。特に後部の可動式フィンは、飛行中の操舵および姿勢制御に用いられます。中間誘導段階では慣性航法システムを使用し、目標への最終的な誘導はパッシブ・レーダー（敵のレーダー波を探知・追尾する方式）によって行われます。ALARMには滞空モードを含め、合計5つの異なる作動モードが搭載されており、通常モードや制圧モードでは、複数のALARMミサイルを連続して発射した場合でも、自動的にそれぞれのミサイルが異なる目標を攻撃するように制御される機能も備わっています。

搭載機と仕様

ALARMが実際に運用された主な航空機は以下の通りです。

トーネード GR.4
トーネード F.3
SEPECAT ジャギュア

当初、ユーロファイター タイフーンへの搭載も計画されていましたが、ALARMの退役により、この計画は実現しませんでした。

主要な仕様は以下の通りです。

用途: 敵防空網制圧 (SEAD)
開発製造: MBDA
全長: 4.24 m
直径: 23 cm
翼幅: 73 cm
発射重量: 268 kg
最大速度: 2,455 km/h（超音速）
* 射程: 1.9 km - 46.3 km

ALARMミサイルは、そのユニークな滞空能力により、敵レーダー網の無力化戦術において重要な役割を果たしました。

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