AMULET

AMULETは、マンチェスター大学の計算機科学科、特にアドバンスド・プロセッサ・テクノロジーズグループ（APTグループ）によって開発された、ARMアーキテクチャを実装した非同期プロセッサのシリーズです。このプロセッサの最大の特徴は、従来のクロック同期設計とは異なり、非同期回路を採用している点にあります。この非同期設計により、消費電力の削減や、特定の用途においては電波障害の低減といったメリットが期待できます。

AMULETシリーズの変遷

AMULET1
1990年に設計が開始され、1993年に製造されたAMULETシリーズの初代モデルです。20MHzで動作する同等の同期設計のARM6プロセッサと比較して、約70%の性能を達成しました。AMULET1は、非同期プロセッサの可能性を示す初期の成果であり、その後のシリーズ開発の基礎となりました。

AMULET2
1996年に製造が開始されたAMULET2は、AMULET1を再実装したモデルです。このモデルでは、キャッシュまたはRAM空間として利用できるオンチップメモリを搭載している点が大きな特徴です。APTグループによる評価では、AMULET2はARM8と同等の消費電力／性能比を達成したとされています。特に注目すべき点は、プロセッサが使用されていない際の消費電力が非常に低い点です。DRAMリフレッシュを扱うオンボードタイマが動作していない状態を仮定すると、消費電力はわずか3μWまで低下します。これは、非同期設計ならではのメリットと言えるでしょう。

AMULET3
AMULET3は、これまでの低消費電力志向から転換し、高性能を目指して再設計されたモデルです。2000年に製造され、ARMv4命令セットとThumbモードをサポートしています。これは、ARM9TMとほぼ同等の機能を備えていることを意味します。性能と消費電力は、同じプロセスルールで製造されたARM9とほぼ同等でした。AMULET3は、その低電波障害特性から、DECT（デジタルコードレス電話）の商用試作機に採用されました。しかし、技術的な課題以外の理由により、量産には至りませんでした。

非同期設計の意義

AMULETシリーズの根幹を成す非同期設計は、従来のクロック同期設計と比較して、いくつかの重要な利点をもたらします。まず、クロック信号が不要となるため、クロック信号生成回路に伴う消費電力を削減できます。また、動作クロック周波数に縛られないため、各回路が処理に必要な速度で自律的に動作でき、柔軟な電力管理が可能です。さらに、クロック信号によるノイズが低減されるため、電波障害に強いシステムを構築できる可能性も秘めています。AMULETシリーズは、これらの特性を活かし、低消費電力や高性能を追求したプロセッサとして、その存在意義を示しました。

関連情報

関連情報として、ARMアーキテクチャや、AMULETを開発したAPTグループについてより深く調べてみることをお勧めします。これらの情報を参照することで、AMULETシリーズの歴史的背景や技術的意義をより深く理解することができるでしょう。

関連項目
ARMアーキテクチャ

外部リンク
ARM Ltd.
* APT Group

もう一度検索