DECT

DECT（デジタル強化無線電気通信）とは

DECT（Digital Enhanced Cordless Telecommunications）は、欧州電気通信標準化機構（ETSI）が1988年に策定したデジタルコードレス電話規格です。当初はコードレス電話向けに開発されましたが、その高い性能から、IMT-2000（国際移動体通信）の要求事項も満たす規格として、国際的にも広く認識されています。欧州をはじめ、オーストラリア、南米、アジアなど、世界中で広く利用されています。

日本におけるDECT

日本では、2010年に総務省令によってデジタルコードレス電話の無線局に関する技術基準が改正され、DECTの技術的条件が定められました。さらに、2011年には電波産業会（ARIB）が標準規格を策定しています。日本国内では、DECTは3G相当の技術であることから「広帯域デジタルコードレス電話」と呼ばれることもあります（2G相当の自営PHSは「狭帯域デジタルコードレス電話」）。

DECTの大きな特徴の一つは、無線LAN（Wi-Fi）が使用する2.4GHz帯と異なる周波数帯を使用するため、電波干渉の影響を受けにくいことです。

DECTの用途

DECTは、以下のような幅広い用途で利用されています。

家庭用デジタルコードレス電話：固定電話回線に接続して、家庭内で利用されます。
ホームセキュリティ関連機器との連携：電話機と連携して、ホームセキュリティシステムの一部として利用されます。
事業所向け内線電話：多数の自営基地局を設置し、事業所内の内線電話システムとして利用されます。
移動体通信：屋外で電気通信事業者の基地局と接続して、移動体通信として利用されます。
公衆交換電話網の代替：需要の少ない地域において、公衆交換電話網の代替として利用されます。
国際ローミング：GSMとのデュアルモード端末による国際ローミングが可能です。
無線アクセス：複数の無線チャネルを束ねて、無線アクセスに利用されます。

次世代DECT（CAT-iq）

次世代DECTとも呼ばれるCAT-iq（Cordless Advanced Technology - internet and quality）は、家庭や事業所向けの自営通信において、高品質な音声（VoIP）やインターネット接続を提供します。ブロードバンド回線に接続されたホームゲートウェイなどを親機として利用します。DECTは、低コスト性や低消費電力性から、センサーネットワーク向けの規格としても注目されており、その仕様策定も進められています。

CAT-iqは、音声ストリーミングや内線通話、ビデオ会議など、無線LANが苦手とする分野での利用が想定されており、既存のPCやゲーム機などの無線LAN通信を置き換えるものではありません。IPベースのホームゲートウェイを基盤とするため、Fixed Mobile Convergence（固定通信と移動体通信の融合）の一種とみなされています。また、日本では次世代ネットワーク（NGN）との関連も注目されています。

IoT向けDECT ULE

IoT（モノのインターネット）向けには、DECT ULE（Ultra Low Energy）という規格も策定されています。これは、低消費電力で広範囲な通信を可能にするもので、スマートホームや産業用IoTなど、様々な分野での利用が期待されています。

日本国内仕様

日本国内でDECT方式の製品を使用する際には、総務省令・告示で定められた技術基準・技術的条件を満たす必要があります。外国仕様のDECT製品は、技術基準適合証明と技術基準適合認定の両方を取得した「技適マーク」が表示されたものしか使用できません。日本で許可されている周波数帯は、1893.5MHzから1906.1MHzの間の5波です。

2012年には、日本国内でのDECT普及促進のため、DECTフォーラム内にジャパンワーキンググループが設立されました。このグループでは、DECT製品を一般消費者が容易に識別できるよう、統一ロゴマークの制定と普及を進めています。ただし、DECTロゴがあるからといって、Wi-FiやPHSのように他社製品との相互接続性があるわけではなく、原則として自社のDECT対応機器間でのみ接続が可能です。

製品例

DECT方式を採用した製品には、以下のようなものがあります。

ユニデン：DECT3080/DECT3280/DECT3288シリーズ
パナソニック：VE-GDシリーズ
シャープ：JD-V35/G30シリーズ

日本のDECTの技術的条件

日本のDECTに関する技術的条件は以下の通りです。

周波数帯：1.9GHz (1880MHz - 1978MHz、2010MHz - 2025MHz)
通信方式：TDD-TDMA（時分割複信-時分割多元接続）、自律分散型マルチチャネルアクセス無線
搬送波：間隔1782kHz、伝送速度1152kb/s、多重化チャネル数12
変調方式：GMSK（ガウス最小偏移変調）
音声符号化方式：32kb/s ADPCM (G.726)
データ通信：回線交換、パケット通信（ISDNと共通のHDLCを元にしたLAPC）
セル半径：25 - 100m
トラフィック密度：10000アーラン/km2

関連情報

DECTに関する詳しい情報は、以下の資料やウェブサイトを参照してください。

情報通信審議会報告
電波法関係省令・告示
電波産業会標準規格
電波産業会 ウェブサイト
ダイアログセミコンダクター DECT LSI
DSP Group（英語）DECT LSI
DSP グループ（日本語）DECT LSI

関連項目

移動体通信：規格の比較
PHS（Personal Handy-phone System）
ND16問題：PHS/DECTコードレス親機の電波と、東経110度CSデジタル放送の特定チャンネルが干渉する問題。
Generic Access Profile
GSM Interworking Profile

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