APIPA

APIPA（Automatic Private IP Addressing）とは

APIPA（Automatic Private IP Addressing）とは、ネットワーク機器が手動設定やDHCPサーバーに頼らず、自身でIPアドレスを自動的に割り当てる技術です。特に、小規模なネットワークや、専門知識を持たないユーザーが利用する環境で役立ちます。この技術は、リンクローカルアドレスと呼ばれる、特定のネットワーク内でのみ有効なIPアドレスを利用します。

リンクローカルアドレス

リンクローカルアドレスは、ローカルネットワーク内でのみ使用されるIPアドレスです。ルーターはリンクローカルアドレスを持つパケットを転送しないため、インターネットなどの外部ネットワークとは通信できません。主に、ネットワーク機器が自身のIPアドレスを自動設定する際に使用されます。

リンクローカルアドレスの割り当てには、管理者が手動で設定する方法と、オペレーティングシステムが自動で設定する方法があります。ほとんどの場合、ステートレスアドレス自動設定という仕組みが使われます。これは、DHCPサーバーなどのアドレス割り当て機構がない場合や、何らかの理由で失敗した場合に利用されます。

IPv4の場合

IPv4では、リンクローカルアドレスとして、`169.254.0.0/16`のアドレスブロックが予約されています。具体的には、`169.254.1.0`から`169.254.254.255`までのアドレスが使用されます。

APIPAによる自動アドレス設定の仕組みは以下の通りです。

1. 機器は予約されたアドレス範囲からランダムに候補IPアドレスを選択します。
2. 選択したIPアドレスがネットワーク内で使用されていないかを確認するため、ARP (Address Resolution Protocol) 要求をブロードキャストします。
3. もし、他の機器が同じIPアドレスを使用していれば、ARP応答が返ってきます。その場合、別の候補IPアドレスをランダムに選択し、同じ手順を繰り返します。
4. ARP応答がない場合、そのIPアドレスは使用可能と判断され、機器に割り当てられます。

APIPAによってリンクローカルアドレスが割り当てられた後でも、グローバルIPアドレスやプライベートIPアドレスが利用可能になれば、そちらが優先的に使用されます。しかし、リンクローカルアドレスによる通信が突然途絶えるわけではありません。マイクロソフトは、この自動アドレス設定技術をAPIPAと呼んでいます。AutoIPと呼ばれることもあります。

IPv6の場合

IPv6では、`fe80::/10`のアドレスブロックがリンクローカルアドレス用に予約されています。実際に使用されるのは、`fe80::/64`のプレフィックスを持つアドレスです。IPv6では、ネットワークインタフェースに必ずリンクローカルアドレスが必要であり、他のアドレスが割り当てられていても、リンクローカルアドレスは必須です。これは、近隣探索プロトコルやDHCPv6などのIPv6ベースのプロトコルで必要とされるためです。

IPv6でのリンクローカルアドレスの自動設定は、ステートレスアドレス自動設定が利用されます。この際、インタフェースのMACアドレスとルーティングプレフィックスからアドレスが構成されます。IPv6では、ルーターや専用サーバーがネットワークに接続された機器に設定情報を通知し、それぞれの機器でIPアドレスが設定されます。この時、各機器の設定をサーバーが管理・記録する必要がないため、ステートレスな運用が可能です。

重複アドレスの検出は、重複アドレス検出（DAD）アルゴリズムによって自動的に行われます。

APIPAの注意点

APIPAは便利な技術ですが、注意点もあります。例えば、IPv4では、DHCPサーバーが存在する場合、APIPAが使用される前にDHCPでのアドレス取得が試みられます。このため、起動に時間がかかる場合があります。
また、リンクローカルアドレスとグローバルアドレスを同一ホストに同時に設定することは、異なるスコープでの複数アドレスの同時使用となり、推奨されていません。そのため、ホストはリンクローカルアドレスを割り当てる前に、DHCPサーバーの有無を確認します。

まとめ

APIPAは、ネットワークの設定を自動化する便利な技術です。特に、小規模ネットワークや、専門知識がないユーザーが利用する環境で有効です。IPv4とIPv6では、リンクローカルアドレスの仕組みに違いがありますが、どちらもネットワーク機器が自動でIPアドレスを設定できるという点は共通しています。