ブロードキャスト

ブロードキャストとは

コンピュータネットワーク、電気通信、情報理論におけるブロードキャストとは、同じメッセージを複数の受信者に同時に送信する通信方式です。これは、プログラムレベルでの操作（Message Passing Interfaceにおけるブロードキャストなど）から、ネットワーク層での低レベルな操作（イーサネットにおけるブロードキャストなど）まで、様々なレベルで実装されています。

全対全通信との比較

ブロードキャストと関連する概念として、全対全通信（all-to-all communication）があります。全対全通信は、各送信者がグループ内の全ての受信者にメッセージを送信する方式であり、マルチキャストによって実現されることもあります。一方、ブロードキャストは、通常、ネットワーク上の全てのデバイス（ノード）にメッセージを送信します。

全対全通信は、各送信者が1つの受信者と通信するポイント・ツー・ポイント方式とは対照的です。

ブロードキャストの仕組み

コンピュータネットワークでは、ブロードキャストはネットワーク上のすべてのデバイスが受信するパケットを送信することを意味します。ただし、実際のブロードキャストの範囲はブロードキャストドメインに限定されます。ブロードキャストは、ホストが一意のIPアドレスで識別される他の単一のホストにデータグラムを送信するユニキャストとは対照的です。

ブロードキャストは、各送信者が受信者ごとに異なる独自のメッセージを拡散するall scatterと、同じメッセージを送信するall broadcastとして実行できます。

大規模コンピュータクラスタのデファクトスタンダードであるMessage Passing Interface（MPI）には、MPI_Alltoallメソッドがあります。これは、全対全通信を実現するためのものです。

ブロードキャストの制限

全てのネットワーク技術がブロードキャストに対応しているわけではありません。例えば、X.25やフレームリレーはブロードキャスト機能を持っておらず、インターネット全体にわたるブロードキャストも存在しません。ブロードキャストは、主にLAN関連の技術、特にイーサネットやトークンリングに限定されています。また、ブロードキャストのパフォーマンスへの影響は、WANほど大きくはありません。

IPv4の後継技術であるIPv6には、ブロードキャスト機能は存在しません。これは、ブロードキャストを使用する特定のサービスを利用するノードが少ない場合に、ネットワーク内の全てのノードを乱すことを防ぐためです。代わりに、マルチキャスト（1対多のルーティング）が使用されます。マルチキャストでは、受信者は特定のマルチキャスト受信者グループに参加するノードに限定されます。

ブロードキャストアドレス

イーサネットとIPv4では、ブロードキャストパケットであることを示すために、全ビットが1のブロードキャストアドレスを使用します。トークンリングでは、IEEE 802.2制御フィールドで特別な値を使用します。

セキュリティリスク

ブロードキャストは、Smurf攻撃などのDoS攻撃に悪用される可能性があります。攻撃者は、ターゲットコンピュータの送信元IPアドレスを使用して偽のpingリクエストを送信します。これにより、ターゲットコンピュータには、ドメイン内のすべてのコンピュータからのping応答が大量に送られます。

ブロードキャストの使用例

IPネットワークでは、新しい相手と通信を開始する際に、IPアドレスからMACアドレスを取得する際にブロードキャストが使用されます。通常のネットワークでは、一定期間ごとにIPアドレスとMACアドレスの対応表を更新するため、そのたびにブロードキャストがネットワークに流れます。

ブロードキャストはネットワークセグメント全体に配信されるため、使用頻度が高いとネットワークに過大な負荷がかかります。そのため、上位のネットワーク層での多用は推奨されません。上位層での利用例としては、DHCPによるIPアドレスの取得や、OSI参照モデルのアプリケーション層で、IPアドレスが不明なサーバを探す場合（Windowsネットワークにおけるファイル共有が可能なマシンの検索など）があります。

ブロードキャスト