ATTS

ホンダの革新的な技術として知られるATTS（Active Torque Transfer System）は、前輪駆動車のハンドリング性能を劇的に向上させたシステムです。1990年代中盤、5代目ホンダ・プレリュードに搭載されたATTSは、それまでのFF車では考えられなかった高い旋回性能を実現し、大きな話題となりました。

ATTSは、その名の通り、前輪左右への駆動力を能動的に制御することで、旋回性能を高めるシステムです。その心臓部は、MCU（Moment Control Unit）と呼ばれるユニットです。MCUは、複雑なギア機構と油圧クラッチを組み合わせることで、旋回時に外側の前輪に積極的にトルクを配分します。具体的には、3組のプラネタリギアと2組の油圧クラッチを用いて、外側の車輪を増速させることで、より積極的な駆動力配分を実現しています。最大で15％ものトルク配分が可能だったと言われています。

ATTSの作動は、非常に高度な制御技術に基づいています。ステアリングの角度、アクセルペダルの開度、車速、そして横加速度（横G）といった様々な情報をセンサーで検知し、車両の状態をリアルタイムで判断します。そして、加速しながら旋回している状況と判断した場合、MCUが作動し、前輪左右のトルクを最適に配分することで、旋回性能の向上を図るのです。

ATTSは、単なる機械的な機構だけでなく、高度な制御ソフトウェアとの連携によって初めてその能力を発揮します。このソフトウェアは、車両の状態を正確に把握し、瞬時に最適なトルク配分を計算する高度なアルゴリズムを搭載しています。そのため、ドライバーはATTSの作動を意識することなく、自然でスムーズなハンドリングを楽しむことができます。

ATTSの開発者、芝端康二氏によると、このシステムの原型は1991年東京モーターショーで発表されたコンセプトカー「FS-X」に搭載された後輪左右駆動力配分システムにまで遡ります。FS-Xは4WDのセダンでしたが、そのシステムは後に進化を遂げ、ホンダのフラッグシップモデルであるレジェンドに搭載されたSH-AWD（Super Handling-All Wheel Drive）へと発展していきました。SH-AWDは、ATTSの技術をさらに進化させ、四輪全てに駆動力を配分することで、より高い旋回性能を実現しています。

ATTSは、その後継システムであるSH-AWDと共に、ホンダの四輪駆動技術における重要なマイルストーンとなりました。ATTSは、前輪駆動車のハンドリング性能の限界を押し広げ、後の電子制御によるトルクベクタリングシステムの先駆けとも言える存在です。現在では、多くの自動車メーカーが様々なトルクベクタリングシステムを採用していますが、ATTSは、その発展に大きな影響を与えたと言えるでしょう。ATTSは、プレリュードというモデルを通じて、世界中の自動車愛好家にその優れた性能を印象づけた、革新的な技術として自動車史にその名を刻みました。

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