Abさんご

小説『abさんご』の紹介

黒田夏子による『abさんご』は、日本の現代文学において特異な存在感を放つ作品です。この小説は、2012年9月7日に『早稲田文学』の第5号に掲載され、後に第24回早稲田文学新人賞を受賞しました。この受賞は、著名な文芸評論家である蓮實重彦による単独選考の結果としてのもので、非常に注目を集めました。

また、2013年1月には芥川龍之介賞を受賞し、横書きで書かれた小説がこの賞を受けるのは史上初の出来事でした。このそもそもの文体の選択が、本作の意義を深める一因となっています。さらに、黒田夏子は受賞当時75歳であり、芥川賞の歴史の中で最高齢の受賞者となりました。

発刊と評価

『abさんご』は、2013年1月22日に文藝春秋から単行本として刊行され、その後2月9日には電子書籍版もリリースされました。2015年7月には、文春文庫として『abさんご・感受体のおどり』が発売されています。これらの出版は、多くの読者から支持を受け、黒田の文学に対する関心を一層高めました。

物語は、15の断章からなる構成で、主人公の幼少期のトラウマや追憶が描かれています。主人公は、幼い頃に両親の片方を失い、最近もう一方の親まで亡くしてしまったという背負いきれない悲しみを抱えるキャラクターです。物語の起点は、小学校入学時に二校の選択肢の中からどちらに進むかという夢の記憶に遡ります。この個人的な追想がどう展開していくのかが、読者の興味を引くポイントとなっています。

各界からの反応

本作は、蓮實重彦の選評がそのまま推薦文に使用されるなど、多くの文学評論家や文学ファンから評価されています。「普通の形式で書かれていない作品を読まないのはもったいない」との言葉は、この作品へのサポートを強く示しています。しかし、すべての声が賞賛に満ちているわけではありません。アマゾンレビューでは、小谷野敦が最低評価である星一つをつけ、「新人賞の応募作としては通用しない」といった厳しい意見も見られました。

また、村上龍は、洗練された作品でありながら芥川賞にはそぐわない一面をも認めつつ、受賞を喜ぶという複雑な感情を表明しました。山田詠美も、本作の独特な書き方に異和感を覚えたと述べ、文学的な新しさへの評価と同時にそれに対する懸念も示しました。

結論

『abさんご』は、黒田夏子にとっての重要な作品であり、同時に日本の文学界に新たな視点を提供しています。収められた物語には、幼少時の影が色濃く浮かび上がっており、感情の深さや人間関係の複雑さが巧みに描写されています。これからも文学界でどのように評価され続けるのか、その動向から目が離せません。

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