Am星

Am星

Am星（えーえむせい、A型金属線星、Am型星とも）は、スペクトル分類でA型に属する恒星のうち、その化学組成のスペクトル線に特徴的な偏りを示す「化学特異星」の一種です。これらの星は、スペクトルに観測される特定の元素の吸収線の強さが、そのスペクトル型を持つ通常の恒星とは著しく異なる特性を持ちます。

特徴的なスペクトル

Am星の最も顕著な特徴は、そのスペクトルに現れる金属元素の吸収線のパターンです。具体的には、鉛（Pb）、ストロンチウム（Sr）、ジルコニウム（Zr）、バリウム（Ba）といった多様な重金属元素の吸収線が、通常のA型星に比べて非常に強く観測されます。一方で、カルシウム（Ca）やスカンジウム（Sc）のような軽元素の吸収線は、予測されるよりもずっと弱く、場合によってはほとんど見られないこともあります。この金属線の「異常」なパターンが、Am星の名称である「A型金属線星」の由来となっています。

化学組成の特異性が生じるメカニズム

このような化学組成の偏りは、恒星内部での「拡散」と呼ばれる物理過程によって引き起こされると考えられています。恒星大気中では、元素の種類によって光子の吸収効率が異なります。光子を効率よく吸収する元素は、恒星内部からの放射圧によって恒星の表面近くへと押し上げられる傾向があります。逆に、光子をあまり吸収しない、あるいは重力が支配的な軽い元素は、恒星の内部へと沈降していくと考えられています。この元素の選択的な移動によって、表面近くの化学組成に偏りが生じるのです。

この拡散による元素分離のメカニズムは、恒星の自転速度が遅い場合に特に効果的に働きます。もし恒星が高速で自転していると、大気中に強い対流や乱流が生じ、元素の分離効果がかき混ぜられて打ち消されてしまいます。したがって、Am星に見られるような明確な化学組成の特異性は、恒星がゆっくりと自転していることが重要な条件となります。

低速自転と連星系

一般的に、同じスペクトル型であるA型主系列星は比較的速い速度で自転していることが多いです。しかし、多くのAm星は、他の恒星と重力的に結びついた連星系を形成していることが知られています。連星系では、両方の恒星の間で働く潮汐力によって互いの自転にブレーキがかかり、結果として自転速度が遅くなる傾向があります。したがって、Am星の多くが連星系に属していることは、拡散による化学組成の特異性が顕著に現れるために必要な低速自転という条件を満たす主要な理由と考えられています。

代表的なAm星

Am星の中で最もよく知られている例の一つに、おおいぬ座の主星であるシリウス（シリウスA）があります。シリウスAは、白色矮星であるシリウスBとの連星系を形成しており、Am星の典型的な特徴を示しています。他にも、夜空には多くのAm星が観測されており、それぞれが特有の金属線のパターンを持っています。

研究と意義

Am星の研究は、恒星大気における元素の輸送メカニズムや、連星系が恒星の物理的特性に与える影響を理解する上で重要な手がかりを提供しています。これらの星のスペクトル詳細な解析は、恒星の内部構造や進化過程に関する理論を検証するためにも役立っています。

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