BMW・N52エンジン

BMW N52エンジン：シルキーシックスの代名詞

BMW N52エンジンは、BMWが製造した直列6気筒自然吸気ガソリンエンジンの傑作として知られています。2004年から2015年にかけて生産され、その滑らかな回転フィールから「シルキーシックス」と称賛されました。多くのBMW車種に搭載され、ブランドイメージを大きく支えたエンジンの一つです。

軽量化への挑戦：革新的な素材と設計

N52エンジン開発における最大の目標は、軽量化でした。そのため、クランクケースには当時としては革新的なマグネシウムとアルミニウムの複合素材を採用しました。量産車においてマグネシウム合金をクランクケースに使用したのは、N52エンジンが初めてでした。

しかし、マグネシウム合金は水への耐腐食性が低く、高温にも弱いという弱点がありました。BMWはこの問題を、アルミニウム製のインナーライニングを施すことで解決しました。この他、軽量なマニホールド、中空カムシャフト、マグネシウム製ヘッドカバー、アルミ製ヘッド、アルミ製オイルパンなども採用し、従来のM54エンジンと比較して約10kgの軽量化を実現しました。その結果、総重量161kgという、6気筒エンジンとしては世界最軽量のエンジンとなりました。

先進技術の搭載：電動ウォーターポンプと可変容量式オイルポンプ

N52エンジンには、先進的な技術が数多く盛り込まれていました。その一つが、第二世代のバルブトロニックです。バルブトロニックは、バルブのリフト量とタイミングを連続的に制御することで、エンジン効率を向上させる技術です。

また、世界で初めて電動ウォーターポンプが採用されました。これにより、エンジンの冷却需要に応じてウォーターポンプの回転数を制御することが可能となり、燃費向上に貢献しました。しかし、この電動ウォーターポンプは故障が多く、オーバーヒートの原因となるケースも発生した点が課題として挙げられます。

オイルポンプも可変容量式が採用され、エンジンの回転数や負荷に応じてオイル供給量を最適に制御しました。

搭載車種と生産終了

N52エンジンは、BMWの様々な車種に搭載されました。具体的には、1シリーズ（E87）、3シリーズ（E90）、5シリーズ（E60、初期のF10）、6シリーズ（E63）、Z4（E85、E89）、X1（E84）、X3（E83、初期のF25）、X5（E70）などに搭載されました。日本市場では正規輸入されませんでしたが、7シリーズ（E65、F01）にも搭載されたモデルが存在します。

2015年に生産が終了したN52エンジンですが、後継エンジンは地域によって異なっています。北米、オーストラリア、マレーシアでは、燃料の硫黄分含有量が多いため、リーンバーン直噴を採用したN53エンジンの導入は見送られ、4気筒ターボエンジンのN20エンジンが後継となりました。一方、日本では、N53エンジンが3シリーズ（E90）に搭載され、2010年7月から正規輸入が開始されています。

N52エンジンのバリエーションと出力

N52エンジンは、排気量によっていくつかのバリエーションが存在し、出力も異なります。主なバリエーションと搭載車種、出力を以下に示します。

N52B25 (2.5L)

130 kW: BMW 523i (E60/E61), BMW Z4 2.5i (E85)
150 kW: BMW Z4 sDrive23i (E89), BMW 523i (F10/F11) (2010年9月-2011年9月)
160 kW: BMW 325i (E90/E91/E92), BMW 525i (E60/E61), BMW X3 2.5si (E83), BMW Z4 2.5si (E85)

N52B30 (3.0L)

160 kW: BMW 125i (E82/E88), BMW 325i (E90/E91/E92), BMW X1 xDrive25i (E84)
190 kW: BMW 130i (E81/E87) (2009年9月-), BMW 330i (E90/E91), BMW 530i (E60/E61), BMW 630i (E63/E64), BMW 730i (E65/E66), BMW Z4 sDrive30i (E89), BMW 528i (F10/F11) (2010年-2011年)
195 kW: BMW 130i (E81/E87) (2009年9月-2011年), BMW Z4 3.0si (E85/E86)
* 200 kW: BMW 330i (E92), BMW X3 3.0si (E83), BMW X5 3.0si (E70)

N52エンジンは、その滑らかな回転フィールと軽量性、そして先進技術の融合によって、BMWの歴史に名を残すエンジンとなりました。

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