BRM・P115

BRM P115：複雑な心臓を持つ短命のF1マシン

1967年のF1世界選手権。ブリティッシュ・レーシング・モータース（BRM）は、野心的な挑戦としてBRM P115を投入しました。このマシンは、トニー・ラッドが設計を手がけ、BRMが独自開発した複雑な3リッターH16エンジンを搭載。このP75と名付けられたエンジンは、既に1966年のフランスグランプリでロータス43に搭載され、その実戦テストを終えていました。

設計：理想と現実のギャップ

P115は、前モデルであるP83を大幅に改良したマシンでした。最も顕著な変更点は、車体の形状。P83に見られた外部冷却パイプは、空力性能向上のため、車体内部に収納されました。軽量化のため、ジュラルミン製だった一部パーツをマグネシウム合金に置き換えたものの、それでも620kgを超える車重は、当時500kgを切る軽量マシンが台頭し始めていたF1においては過重量でした。

さらに、重量配分は後輪寄りで、H16エンジンの2本のクランクシャフトが上部に配置されていること、排気管がシリンダーよりも下部にあることからエンジンを若干持ち上げる必要があったことなどが、ハンドリング特性に悪影響を及ぼしました。結果、P115は理想的なハンドリングとは程遠いマシンとなってしまいました。

レース戦績：信頼性の欠如

P115は1台のみが製造され、1967年シーズンの終盤5戦と1968年開幕戦に投入されました。ドライバーはジャッキー・スチュワートとマイク・スペンス。しかし、どのレースでもエンジンのトラブルやトランスミッションの不具合により、完走を果たすことができませんでした。

1967年シーズンでは、オランダグランプリで初登場。ドイツグランプリでは、スチュワートが予選3番手という好成績を収めましたが、レースではディファレンシャルのトラブルでリタイア。カナダグランプリでは一時2位を走行するものの、コースアウトとスロットル固着によりリタイア。イタリアグランプリでもガードレール接触とエンジントラブルによりリタイア。アメリカグランプリではブレーキと燃料噴射システムのトラブルでリタイア。メキシコグランプリでもエンジントラブルでリタイアと、不運と信頼性の問題が重なったシーズンとなりました。

1968年シーズン開幕戦の南アフリカグランプリでは、スペンスがドライブ。しかし、8周目に燃料システムのトラブルによりリタイア。これがP115の最後のレースとなりました。

短命に終わった挑戦

BRM P115は、革新的な技術と高い潜在能力を秘めていたにもかかわらず、信頼性の問題とハンドリングの難しさから、その実力を発揮することなくF1の歴史から姿を消しました。このマシンの開発に費やされた技術や努力は無駄ではありませんでしたが、F1においては信頼性と扱いやすさがいかに重要であるかを示す例となりました。技術的な挑戦は成功とは限りません。P115はそのことを如実に物語っています。複雑なH16エンジンは、BRMの技術力を示す一方で、信頼性という課題を克服できないまま、その短いキャリアを終えたのです。その後のBRMは、P115に搭載されていたH16エンジンを諦め、より信頼性の高いV12エンジンへと移行することになります。

コンピューターゲームでの登場

コンピューターゲーム『Grand Prix Legends』では、P115をプレイすることができます。同ゲーム内では、P115は6速ギアを持つ唯一の車両として再現されています。

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