BRM・P160

BRM P160：栄光と悲劇のF1マシン

[ブリティッシュ・レーシング・モータース]が1971年から1974年にかけてF1世界選手権に投入したP160は、3.0リッターV12エンジンを搭載した名車です。設計を手掛けたのはトニー・サウスゲート。低く丸みを帯びたモノコック構造が特徴で、燃料タンクの形状に合わせて膨らんだボディラインは、その時代のF1マシンらしい流麗さを際立たせていました。

開発と進化

P160は、先行モデルであるP153をベースに改良を重ねて誕生しました。初期モデルでは、ラジエター配管を車体下部に配置するなど、空力性能の向上に重点が置かれていました。サスペンションも改良され、1971年シーズンではトップクラスの速さを誇り、BRMにコンストラクターズランキング2位をもたらしました。しかし、このシーズンは、ジョー・シフェールの悲劇的な事故で幕を閉じます。シフェールは、BRMで命を落とした唯一のドライバーとして、その名を歴史に刻むこととなりました。

1972年シーズンに向けて、P160はさらなる改良を受けます。モノコックの幅を狭め、開口部を拡大。エンジン吸気用のインダクションポッドが追加され、リヤサスペンションの変更とトレッド拡大により、走行性能が向上しました。この改良型はP160Bと名付けられ、マールボロをスポンサーに迎え、鮮やかなカラーリングに変更されたことで、一層注目を集めました。シーズン中には、オイルクーラーの位置を変更したP160Cも投入。この年、ジャン＝ピエール・ベルトワーズが雨のモナコグランプリで優勝、BRMにとって最後のグランプリ勝利を飾りました。

1973年には、トニー・サウスゲートに代わってマイク・ピルビームが開発に携わり、P160Dではノーズ形状をくさび形からスポーツカータイプに変更するなど、更なる空力性能の向上が図られました。さらに、クラッシャブルストラクチャーの追加による車重増加を伴ったP160Eも開発され、ベルトワーズに加え、クレイ・レガツォーニ、ニキ・ラウダといった名ドライバーがステアリングを握りました。しかし、P160Eは非常に繊細なマシンであり、高いポテンシャルを持つ反面、リタイアも多く、BRMはランキング7位に沈み、メインスポンサーであるマールボロを失うこととなりました。

P180の開発が失敗に終わったため、BRMは1974年シーズンもP160Eを使用せざるを得ませんでした。スポンサー喪失に伴い黒一色のカラーリングとなり、レース・オブ・チャンピオンズからは銀と緑のカラーに変更されました。しかし、登場から4年が経過したP160は、ライバルマシンとの性能差を埋めることが困難となり、1975年にはP201に完全に取って代わられました。

レース戦績

P160は1971年南アフリカグランプリでデビュー。その後、各シーズンにおいて数々のドライバーがマシンをドライブしました。1971年シーズンは、シフェールの優勝、ゲシンの優勝など、輝かしい成績を残しましたが、シフェールの悲劇的な事故は大きな影を落としました。1972年にはベルトワーズがモナコで優勝しましたが、その後はマシントラブルやアクシデントによるリタイアが続き、苦戦を強いられました。1973年、1974年も、マシンは改良が重ねられましたが、上位争いをするには至らず、BRMはF1界から徐々に姿を消していきました。P160は、BRMの歴史において重要な位置を占める一方で、その開発、活躍、そして悲劇的な事故は、F1史の中でも特筆すべきエピソードとして語り継がれています。その栄光と悲劇は、F1の歴史に深く刻み込まれたのです。

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