BTA-6

BTA-6：ソ連時代の巨大望遠鏡とその歴史

BTA-6（БТА、ボリショイ・テレスコープ・アジムタルヌーイ、英語: Large Altazimuth Telescope）は、旧ソ連時代に建設された口径6mの大型反射望遠鏡です。コーカサス山脈の標高2100m地点に位置し、1975年から1993年にかけて世界最大の望遠鏡として君臨しました。しかし、技術的な問題や観測環境などの要因から、その潜在能力を十分に発揮することはできませんでした。それでも、BTA-6の革新的な設計、特にコンピュータ制御による経緯台式架台は、その後の大型望遠鏡設計に大きな影響を与え、赤道儀式架台から経緯台式架台への転換を促す役割を果たしました。

建設：技術的挑戦と困難

BTA-6の建設は、1960年11月にソビエト連邦科学アカデミーの決定に基づき開始されました。設計と建設はロモ（レニングラード光学機械連合）に委託され、アメリカ合衆国との技術協力も行われました。建設地選定には16ヶ所もの候補地が検討され、最終的にゼレンチュクスカヤ近郊のパツーコフ山が選ばれましたが、大気条件の悪さから解像度不足に悩まされることとなります。

主鏡の製作は大きな技術的課題でした。ソ連独自の低膨張ホウケイ酸ガラスを用いて、直径605cm、厚さ65cm、重量70tの巨大な鏡が作られました。鏡の鋳造、研磨、そして歪みを取り除くための焼なましには、長期間を要しました。3度目の挑戦でようやく完成した主鏡は、ロモ工場で精密な調整が行われた後、天文台へ輸送されました。主鏡の支持機構は、たわみによる変形を最小限に抑えるため、60個の支点で支えられる複雑な構造が採用されています。

1974年11月から試運転が始まり、1975年12月に最初の星野写真が撮影されました。その後、本格的な観測運用が開始されました。しかし、ソ連崩壊後も観測は続けられていましたが、2007年には主鏡のアルミニウムメッキ除去作業中にガラスが腐食するという事故が発生し、主鏡の交換が必要となりました。予算不足などの困難を乗り越え、2018年5月に交換が完了しました。新しい主鏡は、鋳造時に不備があったため使用されずに残されていた2枚目の鏡を再利用したものです。

詳細：光学系と機構

BTA-6は、口径605cm、焦点距離2497cm（F4）の反射望遠鏡です。リッチー・クレチアン式光学系を採用しており、補正板を使用することで視野を拡大できます。ナスミス式望遠鏡としても使用でき、この場合の焦点距離は180m（F30）となります。特徴的なのは、ナスミス式副鏡の直径が比較的コンパクトに設計されている点です。

経緯台式架台は、コンピュータ制御によって精密に動作します。ユニークな3球システムにより、巨大な主鏡をスムーズに回転させることができます。経緯台式架台のため、望遠鏡の移動に伴い視野が回転してしまう問題を、主焦点領域の回転機構で解決しています。望遠鏡は、高さ53mにも及ぶ巨大なドームに格納されていますが、このドームの大きさゆえに、外気との温度差による大気揺らぎが発生し、観測の精度を阻害する要因の一つとなっています。

観測成果とその後

BTA-6は、数々の観測成果を上げてきました。例えば、1983年には写真撮影において世界で初めてハレー彗星を捉え、また、M81銀河団に属する多くの矮小銀河を発見するなど、天文学の発展に貢献しました。しかしながら、技術的な課題や観測環境、さらには資金不足などの問題を抱え続け、その潜在能力を完全に発揮しきることはありませんでした。BTA-6の歴史は、科学技術の進歩と困難、そして国家の興亡を反映した、興味深い物語と言えるでしょう。

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