BTRON

BTRONの概要

BTRON (ビートロン、Business TRON) は、[坂村健]]氏が提唱したTRONプロジェクトにおけるビジネス分野を担うサブプロジェクトの一つです。パソコンを中心とした[[オペレーティングシステム]や周辺機器のインターフェース仕様などを規定しており、幅広いコンピューティング環境を構築するための基盤技術として開発されました。

BTRONは、特定の製品ではなく、あくまでも仕様を定義したものです。しかしながら、実際にはその仕様に基づいた実装を指して「BTRON」と呼ばれることも多いため、その点には注意が必要です。現在では、パーソナルメディア株式会社の『超漢字』に含まれるBTRON3が、BTRONの実装として広く知られています。

BTRONの仕様とバージョン

BTRONはTRONプロジェクトの他の要素と同様に、仕様のみが策定され、実装方法は規定されていません。そのため、様々な実装形態が存在し得ます。以下、主なBTRONのバージョンについて説明します。

BTRON1、BTRON2、BTRON3

BTRON1: BTRON286（後述）の仕様を継承したもので、OSのAPIを記述した『BTRON1プログラミング標準ハンドブック』や『BTRON1仕様ソフトウェア仕様書』が存在します。16ビットCPUを対象とした実装が多く見られました。
BTRON2: TRONチップへの実装を想定して設計されましたが、仕様書のみが作成・出版され、実装は実現していません。メモリやプロセスなどをBTRONの特徴である実身/仮身モデルで管理するという点が特徴です。
* BTRON3: 32ビット化され、マイクロカーネルにITRON仕様のRTOS（ItIsをベースにしたもの）を使用しています。SIGBTRONのTRONチップマシンMCUBEへの実装「3B」や『超漢字』で使用されている「B-right」の仕様がBTRON3として公開されており、現在でもパーソナルメディア社の製品で利用されています。

μBTRON

μBTRONは、BTRONのサブセットとして、低価格帯のコンピュータや専用機器への搭載を想定して開発されました。特に「コミュニケーション専用機」というコンセプトで、個人利用向けの小型デバイスなどを想定した、アプリケーションを固定した専用機器への実装が検討されていました。μBTRONバスというリアルタイム性の高いLANバス仕様も提案されましたが、BrainPad TiPOなどへの実装では、完全なμBTRONとしては実現していません。

BTRONのハードウェア

BTRON仕様に則ったハードウェアも開発されました。

TRONキーボード

BTRONでの使用を想定したキーボードです。

μBTRONバス

IEEE 802.5をベースに改良された、リアルタイム性の高いLANバス仕様です。MIDIの代替としての利用も検討されていました。

BTRONの特徴

BTRONは、他のOSとは異なる独自の機能を多数備えています。

TAD (Tron Application Databus)

アプリケーション間でのデータ交換を容易にするための標準データ形式です。文章や図形データだけでなく、様々な種類のデータを共通のフォーマットで扱うことができます。ビッグエンディアンで設計されましたが、BTRON286の実装ではリトルエンディアンの準TADが使用されています。

実身/仮身モデル

ファイル管理モデルとして、従来の階層構造ではなく、実身/仮身モデルと呼ばれる任意の有向グラフ構造を採用しています。データ本体を実身、実身への参照を仮身と呼び、柔軟なデータ管理を可能にしています。このモデルは、現在のハイパーテキスト環境の先駆けともいえます。しかし、参照カウント方式によるガベージコレクションの弱点から、循環参照によるディスク容量の無駄遣いといった問題も抱えています。

リアルタイム動作

BTRONはリアルタイムOSとして設計されており、ビデオやオーディオなどのリアルタイム処理が必要なタスクにも対応可能です。BTRON1はモノリシックなアーキテクチャでしたが、BTRON3ではITRONをマイクロカーネルとして使用することでリアルタイム性を確保しています。

HMI (ヒューマンマシンインタフェース)

TRONプロジェクト全体で標準化を進めたヒューマンマシンインタフェースに則った設計がされています。直感的で使いやすいインターフェースが特徴です。

ダイレクトオペレーション

画面上の要素を直接操作するダイレクトマニピュレーションインターフェースを採用しています。ドラッグアンドドロップによる操作が中心で、初心者でも容易に扱えるよう設計されています。アプリケーションの起動も、実身を示す仮身を選択する操作で行います。

イネーブルウェア

ユニバーサルデザインの思想を取り入れており、様々なハンディキャップを持つユーザーでも使いやすいよう、表示のフォントサイズやマウスポインタの大きさなどを変更できるようになっています。

TRONコード

16ビット文字コードであるTRONコードを使用します。エスケープシーケンスによって複数の文字コード面を切り替えられるため、柔軟な文字表現が可能です。現在の実装では内部コードとして32ビットを使用している場合が多いです。

BTRONの実装

BTRONは様々なハードウェアプラットフォームに実装されてきました。BTRON286をベースとした実装や、TRONチップを搭載したMCUBEへの実装、PC/AT互換機|PC_AT互換機への実装などがあります。現在では、パーソナルメディア株式会社の『超漢字』に含まれるB-right/Vが、BTRON3の実装として広く利用されています。

BTRONの歴史

BTRONプロジェクトは1986年に本格的に始動し、教育用パソコンへの導入も検討されました。しかし、1989年のアメリカ合衆国通商代表部による報告書で、日本の貿易障壁として挙げられたことをきっかけに、教育分野への導入は見送られることになります。この事件は、BTRONプロジェクトの大きな転換点となりました。その後も、様々な実装形態やソフトウェアが開発されてきました。

BTRONの問題点

BTRONにはいくつかの問題点も存在します。ファイルシステムの実装に由来するファイル数の制限（最大64Ki個）や、その拡張の困難さなどが課題として挙げられます。

まとめ

BTRONは、独自の技術思想に基づいた革新的なOSとして開発され、その設計思想やインターフェースは、後のコンピュータの発展に影響を与えました。しかし、政治的な問題や技術的な課題などもあり、当初期待されたほどの普及には至りませんでした。それでも、現在でもBTRON3は『超漢字』などの製品で利用されており、その技術的価値は現在も認められています。

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