Beauty うつくしいもの

『Beauty うつくしいもの』：20世紀の激動と不滅の絆

2007年、後藤俊夫監督によって世に送り出された日本映画『Beauty うつくしいもの』は、長野県下伊那郡大鹿村に伝わる、国の重要無形民俗文化財「大鹿歌舞伎」を題材とした作品です。300年以上の歴史を持つこの伝統芸能を背景に、激動の昭和を生き抜いた2人の役者、小椋半次と桂木雪夫の80年にわたる深い絆を描いています。

キャッチコピーである「いつから逢わぬか、おまえ、憶えていやしゃんすか ―だれに話そう、きみとぼくとの八十年を―」は、物語の核となるテーマを端的に表しています。この言葉は、劇中における重要な歌舞伎演目「新口村」の前段「封印切」からの引用で、二人の運命を象徴する重要なキーワードとなっています。「新口村」は、恋仲であった女郎と飛脚宿の跡取りの物語であり、半次と雪夫の波乱に満ちた人生と不思議なほどに重なり合うのです。

物語は、昭和10年、伊那谷の小さな山村で幕を開けます。少年時代の半次は、村の伝統歌舞伎に魅了され、特に花形役者である雪夫の美しさ、そして歌舞伎そのものの奥深さに心を奪われます。雪夫に誘われ、半次は歌舞伎の世界へと足を踏み入れ、やがて雪夫と共に村を代表する役者へと成長していきます。

しかし、昭和19年、太平洋戦争の影が二人の運命をも変えます。召集令状を受け、戦地へと送られた二人。終戦後、シベリアの強制収容所で過酷な日々を過ごすことになります。収容所では、同郷の友人である政男を失い、雪夫も病に倒れ、壮絶な別れを経験します。雪夫の最期の言葉は、再び「いつから逢わぬか、おまえ、憶えていやしゃんすか」という、歌舞伎のせりふでした。

帰国後、半次は歌舞伎の復興に尽力します。かつて雪夫が演じていた立役を担い、歌子と共に村歌舞伎を盛り立てていきます。そして数年後、新聞記事で伊那谷にしか伝わらない伝統歌舞伎「六千両」を演じる盲目の役者を見つけます。その役者こそ、雪夫だと確信した半次は、雪夫の元へと向かうのです。

この映画は、単なる歌舞伎の物語ではありません。戦争の残酷さ、人間の強さと脆さ、そして何よりも、時代を超えて続く友情と絆を描き出しています。北村和夫さんの遺作でもある本作は、豪華キャストとスタッフを迎え、高い評価を受け、第31回モスクワ国際[[映画祭]]コンペティション部門にも正式招待されました。日本の伝統芸能と歴史を背景に、人間のドラマを繊細に描いた珠玉の作品と言えるでしょう。

監督の後藤俊夫氏、脚本家の小野竜之助氏と菊原とい美氏をはじめ、豪華なスタッフ陣と、片岡孝太郎氏、六代目片岡愛之助氏、麻生久美子氏ら実力派俳優の競演も見どころの一つです。109分という上映時間の中で、昭和という時代、そして歌舞伎という伝統芸能の深淵を、美しく、そして切なく描ききっています。 2008年5月10日には長野県で先行上映され、その後全国公開されました。DVDも発売されており、多くの人に感動と余韻を与え続ける作品です。

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