Berkeley Software Distribution

Berkeley Software Distribution (BSD) の歴史と影響

Berkeley Software Distribution (BSD) は、1977年から1995年にかけてカリフォルニア[[大学バークレー校]] (UC Berkeley) の Computer Systems Research Group (CSRG) によって開発・配布されたソフトウェア群、およびUNIXオペレーティングシステムです。BSDは、AT&TのUNIXを基に開発された派生OSであり、その簡潔で効率的な設計、そして後にオープンソース化されたことで、現代の多くのオペレーティングシステムに多大な影響を与えています。

初期開発とPDP-11版

1970年代、ベル研究所が初期のUNIXをソースコードと共に配布したことで、大学におけるUNIXの研究開発が盛んになりました。UC Berkeleyでは、1974年にPDP-11上でUNIXシステムが稼働し始め、様々な研究に利用されるようになりました。1977年、当時UC Berkeleyの大学院生だったビル・ジョイが、バークレーで開発された改良版ソフトウェアをまとめあげ、最初のBSDである1BSDをリリースしました。これは、Sixth Edition Unixへのアドオン的なものでしたが、Pascalコンパイラやジョイが開発したラインエディタ `ex` などが含まれていました。続く2BSD(1979年)では、`vi` エディタやCシェルが追加され、BSDの機能は飛躍的に向上しました。2BSD系は1992年の2.11BSDまで継続して開発されました。

VAX版とDARPAとの連携

1978年にはUNIXがVAXアーキテクチャに移植されました。しかし、初期の移植版はVAXの仮想記憶機能を生かしていませんでした。バークレーの学生らは仮想記憶を実装し、既存のユーティリティと組み合わせることで、3BSD (1979年末)を完成させました。この3BSDは、国防高等研究計画局 (DARPA) の注目を集め、資金提供を受けることになります。DARPAは、CSRGにVLSIプロジェクトのための標準Unixプラットフォーム開発を委託しました。

CSRGは3BSDを改良した4BSD (1980年)、4.1BSD (1981年)などをリリースしました。4.1BSDでは、VAXの主要OSであるVMSに匹敵する性能を目指した最適化が施されました。4.2BSD (1983年)の開発には2年以上を要し、複数の中間バージョン(4.1a、4.1b、4.1c)がリリースされています。4.2BSDではBerkeley Fast File Systemが導入され、TCP/IP実装も大きく改良されました。その開発にはDARPAが設立した運営委員会が関与し、UC Berkeley、BBN、ベル研究所、スタンフォード[[大学]]、カーネギーメロン[[大学]]、MIT、ISI、UCLAなど、多くの研究機関の専門家が参加しました。4.2BSDのリリースと同時に、ジョン・ラセターが描いたBSDデーモンというマスコットも誕生しました。

4.3BSDとNet/1、Net/2

4.3BSD (1986年)は性能向上に重点が置かれ、AT&T由来のコードを含みながらも、BSD版TCP/IPがDARPAによるテストでBBN版を凌駕する性能を認められました。しかし、AT&Tのライセンスが高価であったため、AT&Tのコードを含まない、自由に再配布可能なNet/1 (1989年)がリリースされました。続いて、キース・ボスティックはAT&Tのコードを全て独自実装で置き換えることで、ほぼ完全なオープンソースOSであるNet/2 (1991年)をリリースしました。

Net/2は、386BSDやBSD/386といったPC-UNIXの基盤となりましたが、AT&Tとの訴訟問題に発展し、開発に一時的な停滞をもたらします。この訴訟問題がLinuxの急激な普及の一因となったという見方もあります。

4.4BSDと派生OS、そしてその後

1994年、AT&Tとの訴訟は、主にバークレー側に有利な形で決着しました。そして、4.4BSDが2つのバージョン(4.4BSD-Liteと4.4BSD-Encumbered)でリリースされ、1995年にCSRGが解散したことで、バークレーにおけるBSD開発は終了しました。しかし、4.4BSD-LiteをベースとしたFreeBSD、NetBSD、OpenBSDといった派生OSが開発され、現在に至るまで活発に開発・保守されています。これらのOSは、オープンソースとして公開され、様々なシステムで使用されています。さらに、WindowsのTCP/IPコードやmacOSにもBSDのコードが利用されています。

BSDの技術的特徴

BSDは、UNIXとして初めてTCP/IPスタック（Berkeleyソケット）を搭載したOSとして知られています。ソケットは、ネットワーク経由のデータ送受信をディスクアクセスのように簡素化し、ネットワークプログラミングを大きく進化させました。また、BSDは高いソースコード品質と充実したドキュメントで知られており、様々な用途に利用可能です。BSD系OSは、バイナリ互換レイヤーを用いることで、異なるOS間のソフトウェア互換性を高めています。

BSDの子孫

BSDは、FreeBSD、NetBSD、OpenBSDといった主要なオープンソースOSの基盤となりました。これら以外にも、DragonFly BSD、TrueOS、DesktopBSDなど、多くの派生OSが存在し、それぞれ独自の特性を持ちながら、様々な環境で利用されています。また、SunOS、macOS、といった商用OSもBSDを起源としています。

まとめ

BSDは、AT&TのUNIXを基に開発され、オープンソース化を経て、現代の多くのオペレーティングシステムに大きな影響を与えた重要なOSです。その簡潔で効率的な設計、高い移植性、そして活発なコミュニティ活動は、BSDの成功を支える重要な要素となっています。

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