Cの福音

『Cの福音』

概要

『Cの福音』（シーのふくいん）は、作家・楡周平によって著された長編小説です。本書は「朝倉恭介vs川瀬雅彦シリーズ」の第1作として位置づけられており、楡周平氏の記念すべきデビュー作でもあります。著者がアメリカ系企業に勤務していた時期に執筆され、主人公である朝倉恭介という型破りなアンチヒーローの登場が大きな反響を呼びました。その人気は累計30万部を超えるベストセラーという形で示され、この成功が後の楡周平氏を専業作家の道へと導く重要な転機となりました。

あらすじ

物語は、アメリカのミリタリースクールで心身を鍛え上げ、文武両道に秀でた若者へと成長した朝倉恭介の光り輝く未来から始まります。名門ブラウン大学への進学も内定し、前途洋々と思われた彼の人生は、両親を乗せた飛行機が悪天候による着陸失敗事故で炎上、両親が突然の死を迎えたことで暗転します。深い悲しみに暮れる恭介は、世間が示す冷酷な現実と厳しさに直面します。

さらに運命は彼に過酷な試練を与えます。格闘技の稽古からの帰途、襲いかかってきた2人の暴漢を正当防衛によって殺害してしまうのです。正当防衛が認められ陪審法廷で無罪とはなったものの、殺人を犯したという事実は彼の社会的な未来を閉ざし、かつての希望に満ちた道は絶たれてしまいます。この出来事を経て、恭介は自らの頭脳、肉体、知識、精神力を最大限に活かせる場所、すなわち“悪の世界”で生きることを決意します。

彼は自身の卓越した知性を駆使し、日本の厳しい税関をも欺く完璧なコカイン密輸システムを開発します。この革新的な手法が功を奏し、恭介はアメリカマフィアの大物であるロバート・ファルージオから、未開拓であった日本の巨大なマーケットを任されることになります。悪の論理で生きることを選んだアンチヒーロー、朝倉恭介の苛烈な生き様が描かれていきます。

主な登場人物

朝倉 恭介（あさくら きょうすけ）

本作の主人公。日本の総合商社社員を父に持ち、ロンドンで誕生。幼少期を東京で過ごした後、両親と共に渡米。中学卒業後は母の反対を押し切ってフィラデルフィアのミリタリースクールに進み、厳しい訓練と教育の中で聡明な知性と強靭な肉体を獲得します。名門ブラウン大学への進学が決まるも、卒業を目前に両親を事故で亡くし、さらに暴漢殺害を経て裏社会に身を投じることになります。コンピューターネットワークを駆使した独自のコカイン密輸システムを構築し、日本のマーケットを支配しようと目論みます。

生い立ち: ロンドン生まれ。父は総合商社マン。NY駐在を経てミリタリースクールへ。
能力: 文武両道に秀で、聡明な頭脳と強靭な体力を持つ。中国語、韓国語にも通じる。
身体的特徴: 身長180cm超、筋肉質。軽くウェーブのかかった髪、厚い唇、澄んだ大きな二重の瞳。左頬に薄い傷跡。
嗜好: タバコはゴロワーズを愛用。ブラジルの大衆音楽であるショーロを好んで聴く。

その他物語に関わる人々

ロバート・ファルージオ: アメリカマフィアの大物。恭介のルームメイトの父で、様々な非合法ビジネスを仕切る。
ルー・ゴッズマン: 偽造の元プロで、シカゴで商店を経営する。
稲田 茂実: 大手総合商社菱紅のニューヨーク駐在員。ジョン・チアーザの策略にはまり、コカイン中毒から密輸に利用される「鸚鵡（おうむ）」となる。
ジョン・チアーザ: マンハッタンの投資顧問会社経営者。稲田をコカイン漬けにして利用する。
ジュディ・チアーザ: ジョンの姪。バーナード・カレッジの学生で、稲田にコカインを教える。
朱 長城（しゅ ちょうじょう）: 東京・歌舞伎町を拠点とする台湾マフィア「タイガーヘッド」の幹部。六本木一帯を取り仕切り、「欲しいものは力でもぎ取る」を信条とする。
葉 文信（よう ぶんしん）: 朱の組織における六本木地域のナンバー2。神経質そうな容姿。
山村 秀樹: フリーのテレビドラマプロデューサー。恭介の協力者の一人。
成瀬 美江: グラビアアイドル。コカイン中毒となり、恭介から仕入れたコカインを転売する。
前島 和男: 東京下町の水産会社社長。
アーネスト・アグリエッティ: ポーツマス周辺の実業家。地元犯罪組織やファルージオの組織と関係があり、麻薬取引に関与する。

書誌情報

1996年2月 宝島社 ISBN 4-7966-1064-2
1998年8月 宝島社文庫 ISBN 4-7966-1378-1
2005年5月 宝島社文庫【新装版】 ISBN 4-7966-4601-9
* 2008年10月 角川文庫 ISBN 978-4-04-376503-4

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