CD分類

CD分類とは

CD分類は、ヒトの白血球をはじめとする多様な細胞の表面に見られる分子（表面抗原）に特異的に結合するモノクローナル抗体を、国際的に統一された基準で分類するシステムです。この分類は、本来は抗体そのものを対象としていますが、その抗体が認識する表面抗原の名称としても広く用いられており、CD抗原またはCD分子とも呼ばれます。

名称の由来であるCDは、"cluster of differentiation" の頭文字から取られており、「分化抗原群」と訳されます。これは、細胞、特に白血球の分化の過程で発現が変化する可能性のある細胞表面分子を標的とするモノクローナル抗体を、特定のパターンで認識する抗体群としてクラスター（群れ）ごとに分類したことにちなんでいます。これらのCD抗原には、細胞の機能や分化に重要な役割を果たす様々な分子が含まれています。

分類が必要な理由

白血球を含む多くの細胞は、その表面に糖タンパク質などで構成される多様な分子を発現しています。これらの細胞表面分子は、細胞の種類や状態によって異なり、これを手がかりに細胞を細かく識別することが可能です。これらの分子は、モノクローナル抗体が結合する際の「標的」となることから、表面抗原や表面マーカーと呼ばれています。

実際には、異なる研究機関で開発された複数のモノクローナル抗体が、全く同じ細胞表面抗原に結合するという状況が頻繁に発生し、研究者間でどの抗体がどの分子を認識しているかの情報共有が混乱する事態を招きました。この混乱を解消し、研究者間の共通言語を確立するため、同一の表面抗原を認識する抗体群をまとめて一つのグループとし、国際的に共通の番号（CD番号）を与えて標準化を図る目的で、CD分類システムが構築されたのです。

CD分類の歴史

CD分類の歴史は、1975年にケーラーとミルスタインによってモノクローナル抗体の効率的な作成方法が確立されたことに深く関わっています。この技術の登場により、1970年代末から1980年代前半にかけて、白血球の細胞表面に存在し、その機能や分化のマーカーとなる多くの分子が次々と同定され、それを認識するモノクローナル抗体が樹立されました。しかし、同じ抗原に対して研究者ごとに異なる名前が付けられるなど、分子や抗体の命名が非常に混乱していました。

この状況を打開するため、ヒト白血球分化抗原（Human Leucocyte Differentiation Antigens; HLDA）に関する国際的なワークショップが企画されました。第1回会議は1982年にパリで開催され、多くの研究機関から持ち寄られたモノクローナル抗体が、複数の施設で横断的に評価されました。抗体が認識する抗原の相同性をクラスタ解析（群解析）によって詳細に調べた結果、同一抗原を認識すると判断された抗体群に、統一されたCD番号が初めて割り当てられました。この第1回会議では、当時集められた約140種類の抗体の中から、CD1からCD15までの15種類のCDが決定されました。

その後、HLDAワークショップは概ね2年から4年の間隔で開催され、新たなCD番号が順次決定されていきました。当初は白血球の表面抗原に対する抗体の分類を主な目的としていましたが、研究の進展に伴い、赤血球や血管内皮細胞、線維芽細胞など、白血球以外の細胞の表面分子に対する抗体も分類の対象に含まれるようになりました。この実情を反映し、2004年にはHLDA委員会がワークショップの目的をヒト細胞分化抗原（Human Cell Differentiation Molecules; HCDM）の研究・分類へと変更することを決定しました。そして、2006年からはワークショップの名称もHCDMワークショップと改められ、現在に至るまで細胞表面分子に関する国際的な標準化が進められています。

CD番号の規則

CD分類において、各抗体群（または抗原）に付けられるCD番号は、基本的に国際ワークショップで決定された順に単に番号を振ったものであり、番号自体に特別な生物学的な意味や機能的な関連性はありません。

ただし、既存のCD分子が、実際には複数の closely related な分子種として存在することが後から判明した場合などには、元のCD番号にアルファベットの枝番を付けて区別することがあります。例えば、CD1分子ファミリーのように、CD1a、CD1b、CD1c、CD1dといった形で表記されます。この枝番の付け方には、明確な定義が定められているわけではありません。

一方、ある種の細胞に限定された分布を示す亜型が存在するCD抗原については、番号の後ろにR（restricted distribution、限定分布を意味する）を付けて区別することがあります。代表的な例として、CD45Rなどが挙げられます。

さらに、国際ワークショップでの評価の結果、CD分類の基準を完全に満たさないものの、一定の特異性が認められる抗体群や抗原については、正式なCD番号ではなく、workshop CD (CDw) として暫定的な番号が与えられることがあります。これは、今後の研究による知見の蓄積を経て、正式なCD番号に昇格する可能性も示唆しています。

CD分類システムは、細胞生物学や免疫学の研究において、細胞の種類や状態を特定するための不可欠なツールとして広く活用されています。この国際的な標準化により、世界中の研究者が同じ認識で細胞表面分子を扱えるようになり、円滑な情報交換と研究の進展に大きく貢献しています。

もう一度検索