DABCO

1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン (DABCO)

概要

1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンは、化学式 C6H12N2、分子量 112.17 を持つ複素環式アミン化合物です。一般的には頭文字をとって DABCO（ダブコ） と呼ばれることが多いですが、この名称はエボニック社の登録商標となっています。別名として1,4-エチレンピペラジンやトリエチレンジアミンとも呼ばれます。CAS登録番号は [280-57-9] です。

その特徴的な構造は、ピペラジン環の向かい合う窒素原子間にさらにエチレン基が架橋された、かご状（あるいは自転車のフレームのような）構造をしています。この独特な立体配置が、DABCOの化学的な性質に大きな影響を与えています。

化学的性質

DABCOの化学的性質の中で特に注目すべきは、その塩基性と求核性です。

塩基性に関しては、第一解離定数の対数（第一 pKaH）が8.8程度であり、これは通常の鎖状アミンと同程度の塩基性を示します。つまり、強酸性下ではプロトン化されますが、一般的には中程度の塩基として振る舞います。

一方、求核性、すなわち電子対を供与して新たな共有結合を形成する能力は著しく高いことが知られています。この高い求核性は、その特異な構造に起因します。DABCOでは、窒素原子に結合しているアルキル基が剛直な架橋構造によって固定されており、窒素原子上の非共有電子対を取り巻く立体障害が非常に小さくなっています。これにより、外部から近づいてくる求電子剤に対して、非共有電子対が容易にアクセスできるため、高い反応性（求核性）を示すのです。

主な用途

DABCOは、その特異な化学的性質、特に高い求核性を活かして、様々な分野で触媒として利用されています。最も主要な用途の一つは、ポリウレタンフォームの製造における触媒です。

ポリウレタンは、イソシアネート基（-NCO）を持つ化合物と水酸基（-OH）を持つ化合物（ポリオールなど）の重付加反応によって生成されるポリマーです。ポリウレタンフォームを製造する際には、この重付加反応に加えて、発泡剤（通常は水）とイソシアネート基の反応によって二酸化炭素ガスを発生させる泡化反応も同時に進行させます。DABCOは、これら二つの反応、特にイソシアネート基と水酸基の反応に対して高い活性を示し、重付加反応と泡化反応の進行速度のバランスを適切に保つ上で重要な役割を果たします。

その他の用途

近年では、DABCOのもう一つの特徴である「比較的弱い塩基性ながら高い求核性を持つ」という性質が注目され、有機合成反応における触媒としても広く用いられるようになっています。

例えば、アルデヒドなどのカルボニル化合物と活性メチレン化合物の間で炭素-炭素結合を形成する 森田・ベイリス・ヒルマン反応 の触媒として有効であることが見出されています。この反応では、DABCOの高い求核性によってカルボニル炭素が攻撃され、その後のプロトン移動や脱離を経て目的生成物が得られます。DABCOのように求核性が高く、かつ塩基性が極端に強くない触媒は、副反応を抑えつつ効率的に反応を進行させるためにしばしば有利に働きます。

このように、DABCOは独特なビシクロ構造に由来する化学的特性、特に高い求核性を利用して、産業分野から精密有機合成まで、幅広い応用が見られる重要な化合物です。

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