DART (探査機)

DARTミッションの概要

DART（ダート）、正式にはDouble Asteroid Redirection Testは、NASAが推進した小惑星の軌道変更に関する画期的な実験です。このミッションは、地球に衝突する可能性のある小惑星への対策を講じる一環として、宇宙機を意図的に小惑星に衝突させることで、その軌道を変える実験を行いました。2021年11月24日に打ち上げられ、2022年9月26日に目標である二重小惑星の一つ、ディモルフォスへの成功した衝突を遂げました。

背景

地球近傍小惑星として知られる天体は、地球に危険を及ぼす可能性があるものが多数存在しています。中でも、直径140メートル以上の小惑星は約25,000個が推定されています。このため、NASAは2016年に地球防衛調整局(PDCO)を新設し、これらの小惑星の検出、評価、対策について研究を進めてきました。

DARTはこのプログラムの中で、実際に衝突を通じて小惑星の軌道変更が可能であるかを検証する初の試みとなります。本ミッションは、ジョンズ・ホプキンズ大学応用物理研究所（JHUAPL）によって設計・製造され、全体の開発費は約3億3000万ドルに及びます。

DARTの打上げと軌道

DARTは2021年11月24日にSpaceXのファルコン9によって打ち上げられました。宇宙機はキセノンガスを使用したソーラー電気推進により、約10か月間の旅を経て二重小惑星ディディモスに到達しました。ディディモスは主星ディディモス（直径780メートル）とその周回衛星であるディモルフォス（直径170メートル）から成り立っています。

DARTは、ディモルフォスをターゲットに自律的な誘導を行い、相対速度6 km/sで衝突しました。また、DARTにはASI（イタリア宇宙機関）から提供された小型宇宙機LICIACubeが搭載されており、DARTが小惑星に衝突する瞬間を撮影する役割を担っていました。

衝突実験

DARTは、衝突の2か月前に距離3200万キロメートルからディディモスをカメラで捉え、さらに衝突15日前にはLICIACubeを分離しました。衝突当日は自律誘導に切り替え、そして2022年9月26日23時16分（UTC）には無事にディモルフォスに衝突しました。衝突時の距離は1100万キロメートルでした。

衝突の結果、ディモルフォスの公転周期は11時間50分から約10分短縮されると予測されており、NASAの成功基準は73秒以上の短縮でした。さらに、衝突により直径20メートルのクレーターが生成されたとされています。10月11日、実験結果が発表され、衝突後の公転周期は11時間23分となり、32分の短縮が確認されました。これは当初の成功基準を25倍上回る結果です。

AIDA計画との連携

DARTは、NASAとESA（ヨーロッパ宇宙機関）が共同で進めるAIDA（Asteroid Impact and Deflection Assessment）計画の一環として実施されました。NASAのDARTが2022年に衝突実験を行った後、ESAは2023年に探査機Heraを打ち上げる計画で、Heraは2026年にディディモスに到着し、DARTの結果を詳細に観測する予定です。当初の計画では、ESAがAIMという探査機を担当し、衝突実験を観測することになっていましたが、AIMはキャンセルされ、観測は地球上の望遠鏡を使用する方向に決まりました。

結論

DARTミッションは、地球防衛における新たな一歩を示す成功した実験です。この衝突実験は、小惑星の軌道を変更する可能性を実証し、今後の地球への潜在的な脅威に対する対応策の開発に貢献することでしょう。

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