DB (自動車)

DB（Automobiles Deutsch et Bonnet）：フランスのスポーツカーメーカーの栄光と終焉

1938年から1962年まで存在したフランスの自動車メーカー、DB（ディービー、Automobiles Deutsch et Bonnet）は、エコール・ポリテクニーク出身のシャルル・ドゥーチェと、シトロエンの代理店経営者だったルネ・ボネによって設立されました。二人の情熱と才能が結実したDBの歴史は、レーシングカー開発から市販スポーツカー製造、そして最終的な会社解体まで、数々のドラマを秘めています。

シトロエンチューナーとしての出発

DBの歩みは、シトロエン車のチューニングから始まりました。まず、シトロエン11CVレジェをベースにしたレーシングカーの製作に着手。ベース車とは大きく異なる、空気抵抗を極限まで低減したオープン2シーターのスペシャルカーが1938年に完成しました。軽量化と空力性能に重点を置き、2リッターエンジンはベース車の45hpから60hpに向上。パリ12時間レースに参戦し、2,000ccクラスで記録的な最高速度を叩き出しました。しかし、第二次世界大戦の勃発により、計画は中断を余儀なくされます。

戦後、DBはシトロエン2リッターエンジンを搭載したF2マシンやレーシングスポーツカーを開発。その技術は、後のクーパーF1にも影響を与えるほど革新的でした。1949年にはシトロエン7CVをベースにしたマシンで、戦後初のル・マン24時間レースにも挑戦しています。

パナールチューナー時代とスポーツカーレースでの活躍

シトロエンエンジンのレース用ベースとしての限界を見据えたDBは、1946年に登場したパナール・ディナXのエンジンに着目。そのコンパクトながら高度な設計のエンジンを、F3マシンに搭載しました。しかし、当時最強だったクーパー500には敵わず、思うような成果は得られませんでした。

その後、DBはパナール・ディナをベースにしたフォーミュラ・リブレマシン「モノミーユ」を開発し、ワンメイクレースを開催。F1規定変更に伴い、750ccに排気量を縮小したモノミーユを開発するも、エンジン出力不足により成功には至りませんでした。ルノーエンジン搭載車や四輪駆動車なども試作されましたが、いずれも実を結ぶことはありませんでした。

一方、ル・マン24時間レースなどのスポーツカーレースでは、DBは真価を発揮します。パナール・ディナをベースに、様々な排気量のマシンを開発し参戦。アルミニウム製ボディの空力性能は、当時の最先端技術でした。ルネ・ボネ自身もドライバーとして数々のレースに参加し、セブリング12時間レースやミッレミリアでのクラス優勝、ベルジャン24時間レースでの総合4位入賞など、輝かしい成績を残しました。

市販車「コーチ」の登場と会社解体

1950年代初頭、スポーツカーの需要が高まる中、DBはついに市販車「コーチ」を発表。パナール・ディナをベースにした2シータークーペは、フランスの若者から絶大な人気を得ました。610ccから954ccまでの様々な排気量のバリエーションが用意され、最高速度185km/hに達するモデルもありました。1955年にはボディの改良とFRPの採用、1960年にはカブリオレモデル「ル・マン」も発表されました。

しかし、順風満帆だったDBの未来に影を落とす出来事が起きます。設計思想を巡り、シャルル・ドゥーチェとルネ・ボネの意見が対立。1962年、シャルル・ドゥーチェは会社を去り、DBは解体、オトモビル・ルネ・ボネへと姿を変えました。DBの歴史は幕を閉じましたが、その技術と情熱は、後のフランス自動車業界に大きな影響を与え続けました。

もう一度検索