DIN 1451:公共交通からロゴまで幅広く使われるサンセリフ書体
DIN 1451は、ドイツ規格協会(DIN)が1931年に定めた
サンセリフ書体です。もともとは工業用として設計され、技術的な制約下でも読みやすいように簡素化されたデザインが特徴です。この書体の読みやすさとシンプルさから、公共交通機関の案内サインや道路標識、ソフトウェアなど、幅広い分野で利用されています。
概要
DIN 1451書体ファミリーは、中字版(Mittelschrift)と縮約版(Engschrift)の2種類が基本です。かつては拡張版(Breitschrift)も存在しましたが、現在ではほとんど使用されていません。DIN 1451は、ドイツをはじめとする多くの国で道路標識に使われています。1956年から1995年まで、ドイツの自動車ナンバープレートにも採用されていましたが、偽造防止と自動認識の精度向上のため、FE-Schriftに置き換えられました。
1990年にPostScriptフォントとしてリリースされてからは、さらに広く知られるようになりました。多くのフォントベンダーが改変版や拡張版を提供しており、現在では民間企業や非政府組織でも広く使用されています。日本国内でも、
ユニクロのロゴ(英字版)や東京オリンピックのロゴにDIN 1451由来のデザインが採用されたほか、公共交通機関の案内サインなどにも使用されています。
歴史
1931年、ドイツ規格協会はDIN 1451を正式に発表しました。この規格には、機械彫刻文字、手書き文字、レタリングステンシル、印刷用標準書体などが含まれています。当初は、看板、交通標識、案内標識、技術図面、技術文書での使用が想定されていました。
DIN 1451 Engschrift(縮約版)の起源は1905年にまで遡ります。当時のプロイセン邦有鉄道が、すべての車両に標準化された文字スタイル「Musterzeichnung IV 44」を採用しました。このスタイルは、後の駅プラットフォームや駅施設の看板文字にも引き継がれました。1920年、ドイツの鉄道会社が統合されて
ドイツ国営鉄道となり、プロイセン鉄道の書体が事実上の国家標準となりました。DIN書体委員会は、シーメンスのエンジニアであるルートヴィヒ・ゲーラーが率い、1920年から1945年の間、シーメンス・ウント・ハルスケの中央標準化事務所も兼任していました。
書体デザインには、DIN Engschriftだけでなく、DIN Mittelschrift(中字版)も含まれていました。DIN Breitschrift(拡張版)も設計されましたが、広く普及することはありませんでした。
DIN 1451のすべての文字は、コンパスと定規で簡単に描画できるように、粗いグリッドベースで設計されています。1931年に暫定版が発表され、1936年に若干の修正を経て正式規格となりました。1938年には、ドイツの高速道路である
アウトバーンでの使用が義務付けられ、DIN 1451はドイツの公共文字を支配する書体となりました。
公共分野や技術分野での採用が進むと、DIN 1451は急速に普及しました。セルロイド製のレタリング用ステンシル、大型の金属製ステンシル、鋳造金属製のレタリングなど、様々な形で展開されました。しかし、DIN 1451に準拠した印刷用活字は生産されませんでした。第二次世界大戦中には、
ベーメン・メーレン保護領でも採用されました。1943年には
キリル文字が追加されましたが、デザインはDIN Mittelschriftの太さや比率とは一致しませんでした。
使用例
DIN 1451由来のものがロゴに使用されている例
ユニクロ
2020年東京オリンピック・パラリンピック大会ロゴ
東京地下鉄
案内サインにDIN 1451由来のものが使用されている例
京成電鉄
新京成電鉄
関連項目
ドイツ工業規格
ドイツ工業規格の一覧
外部リンク
Linotype製 DIN: DIN 1451, DIN Next, DIN Next Arabic, DIN Next Devanagari font family - Akira Kobayashi(2012年)、Kimya Gandhi(2012年)によるデザイン。
Parachute製 DIN: PF DIN Text Pro, PF DIN Text Arabic, PF DIN Text Universal, PF DIN Text Condensed Pro, PF DIN Text Compressed Pro, PF DIN Display Pro, PF DIN Mono Pro, PF DIN Stencil Pro, PF DIN Type System - Comparison Table
使用例: DIN 1451, DIN Engschrift, DIN Breitschrift