DPワールド

DPワールド：世界を繋ぐ港湾運営会社の興亡とアメリカでの論争

DPワールド社は、アラブ首長国連邦ドバイに本拠を置く、世界有数の港湾運営会社です。ドバイ政府系企業であるドバイ・ワールドの子会社として、世界30カ国以上で50以上のコンテナターミナルや自由貿易区を運営する巨大企業へと成長を遂げました。その歴史は、ドバイ・ポーツ・インターナショナル（DPI）とドバイ港湾公社の合併から始まります。

ドバイからの躍進：DPIの設立とグローバル展開

1999年、ドバイ港湾公社のノウハウを活かして海外展開を図るため、DPIが設立されました。DPIは、中東最大級のコンテナターミナルであるジュベル・アリ港やラーシド港の運営で培った経験を基に、サウジアラビア、ジブチ、インド、ルーマニアなど、世界各地の港湾運営を受託していきました。2005年には、CSXワールド・ターミナルズを買収し、香港、中国、オーストラリア、ドイツなど主要港湾での事業基盤を拡大しました。

P&O買収と世界3位への成長

2005年9月、DPIとドバイ港湾公社が合併してDPワールドが誕生。そして2006年3月、DPワールドはイギリスのP&Oを買収しました。この買収は、当時世界第4位のメガターミナルオペレーターであるP&Oマリタイム・サービスの獲得という大きな成果をもたらしました。これにより、DPワールドは世界30カ国以上で50以上のコンテナターミナルと4つの自由貿易区を運営する世界第3位のメガターミナルオペレーターへと成長しました。

アメリカでの激しい反発と撤退

しかし、このP&O買収はアメリカ合衆国で激しい反発を招きました。P&Oはニューヨーク港、ニューアーク港などアメリカ東海岸の主要港でコンテナターミナルを運営していたため、その運営権がアラブ首長国連邦の企業に移ることに対し、安全保障上の懸念が示されたのです。

アメリカ合衆国議会では、DPワールドによる港湾運営の取得に反対する声が高まりました。下院議員らは、アラブ首長国連邦がアルカーイダの資金源や人材供給源になっているとの懸念を表明し、激しい議論が展開されました。ブッシュ大統領は拒否権を発動する可能性を示唆するなど、政府内でも意見が分かれ、議論はメディアや論客を巻き込む大きな論争へと発展していきました。

最終的に、DPワールドはアメリカ国内での港湾運営事業をAIG傘下の資産管理会社に売却し、アメリカ市場から撤退するという決断を下しました。この決定は、投資の自由と国家安全保障という相反する利害のせめぎ合いの中でなされた、非常に複雑な問題を示しています。

結論

DPワールドは、ドバイ発祥の企業として、世界的な港湾運営会社へと成長を遂げました。しかし、P&O買収を巡るアメリカでの論争は、グローバル化における安全保障問題と経済的利益のバランスの難しさを改めて浮き彫りにしました。この事件は、国際的な企業活動における政治的リスクと、国家間の複雑な関係性を理解する上で重要な教訓と言えるでしょう。

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