Distributed.net

distributed.netは、1997年に活動を開始した、分散コンピューティング分野の草分け的存在として知られる国際的なボランティア組織です。世界各国の参加者が、自身のコンピュータの余剰計算能力を提供し合うことで、単一のマシンでは困難な膨大な計算処理を可能にしています。その主な活動内容は、暗号アルゴリズムの安全性を検証するための総当たり攻撃（ブルートフォース攻撃）による解読挑戦や、数学的な難問における最適な解を全探索によって発見することにあります。

この組織の根幹をなすのは、インターネットを通じて接続された世界中のコンピュータ群が、まるで一台の巨大なスーパーコンピュータのように連携して動作する「分散コンピューティング」の概念です。これにより、個々の参加者は特別な機器を用意することなく、社会的に意義のある計算プロジェクトに貢献できる点が大きな特徴です。

これまでにdistributed.netが取り組んできた主要なプロジェクトは複数あります。

Optimal Golomb Ruler (OGR) プロジェクト

ゴロム定規とは、正の整数の集合のうち、どの2つの数字の差も重複しないという性質を持つものです。これを定規に見立てると、目盛りの位置を示す数字のペア間の距離が全て異なる定規と解釈できます。実世界の電波天文学におけるアンテナ配置や、ネットワーク技術など、様々な分野で応用されています。このプロジェクトでは、指定された数の目盛りを持つゴロム定規の中で、最も全長が短い「最短ゴロム定規（OGR）」を、全探索によって見つけ出すことを目指しました。過去にはOGR-24からOGR-28までの課題を完了させています。

RC5 プロジェクト

RC5はRSAセキュリティ社（当時）によって開発された共通鍵暗号アルゴリズムです。同社は特定の鍵長のRC5暗号の安全性を評価するため、自ら賞金を設けた暗号解読コンテスト「Secret Key Challenge」を主催していました。distributed.netはこのコンテストに参加し、考えられる全ての鍵を試す総当たり攻撃によって暗号解読に挑戦しました。RC5-56とRC5-64といった過去の課題では、それぞれ鍵空間の大部分を探索した末に解読に成功しています。2007年にRSAセキュリティ社によるコンテストは終了しましたが、distributed.netが独自に賞金を用意することで、RC5-72といったさらなる難題への挑戦を現在も継続しています（2025年1月時点）。

DES および CSC プロジェクト

かつてdistributed.netは、他の主要な暗号解読コンテストにも参加していました。RSAセキュリティ社が主催したDES暗号解読コンテスト「DES Challenge」や、CS Communications & Systems社主催の「CS-Cipher Challenge」です。DESプロジェクトでは、電子フロンティア財団（EFF）が開発した専用ハードウェアとの競争や共同作業を通じて、短期間での解読成功を果たした歴史があります。CSCプロジェクトでも鍵空間の98%を解析して解読に成功しましたが、これらのコンテストは現在開催されておらず、distributed.netによる関連プロジェクトも終了しています。

現在進行中の主要プロジェクトはRC5-72であり、過去に完了したOGR、RC5、DES、CSCの各プロジェクトでの成果は、分散コンピューティングの有効性を示すとともに、暗号技術や数学的研究の進展に貢献してきました。世界中のボランティアの計算能力を結集するというユニークな手法は、計算科学の新たな地平を切り開いてきました。

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