E-4WD

e-4WD

e-4WD（イーヨンダブリュディー）は、日立製作所によって開発された、小型ガソリンエンジン車向けの後輪モーター駆動式四輪駆動システムです。この方式では、車両の前輪は従来のガソリンエンジンによって駆動されますが、後輪は独立した電気モーターによって駆動されるという特徴を持ちます。このシステムは、2002年に日産自動車の車両に初めて採用され、翌2003年にはマツダからも搭載車種が登場しました。

システムの構成と特徴

e-4WDシステムは、主に後輪を駆動するためのモーター、クラッチ、減速ギアを含む「駆動ユニット」、システム専用の電力を生成する「発電機」、そしてこれらを統合制御する「電子回路」の3つの主要な要素から成り立っています。駆動用モーターには、日立製作所の業務用洗濯機向けに培われた技術が応用されていました。

このシステムが搭載されたのは、ベースが前輪駆動（FF）で、オートマチックトランスミッションを備えた車両に限定されます。電気駆動ユニットは後輪に配置され、必要に応じて車両の後輪を駆動します。凍結路や積雪路といった滑りやすい路面での発進性能は、エンジンの動力を4輪全てに伝える一般的な四輪駆動車と同等の実力を持つとされつつも、以下のようないくつかのメリットを実現しています。

燃費の向上: システム非作動時やFF走行時には、駆動系ロスが少ないため、燃費を約5%向上させることができました。
車重の軽量化: 一般的な四輪駆動システムに比べて部品点数が削減され、車両全体の重量を約15%軽量化しています。
設計の自由度向上: 一般的な四輪駆動では、車体前部のエンジンから後輪へ動力を伝えるプロペラシャフトが車室床下の中央を通過するため、フロアの形状に制約が生じることが少なくありません。一方、e-4WDではプロペラシャフトが不要であるため、室内空間、特に後部座席の足元空間の確保や、車体剛性を高めるフロアパンの設計において、より高い自由度が得られました。
機械抵抗の低減: プロペラシャフトやそれに伴うベアリング、歯車といった部品の機械的な抵抗が省かれます。

一方、デメリットも存在します。後輪付近に配置される駆動ユニットは、一般的な四輪駆動の差動装置に比べてサイズが大きくなることがあり、結果として荷室の容積を圧迫するケースも見られました（例として、マツダ・デミオではスペアタイヤの収納場所に影響がありました）。また、急勾配の登坂時やスタック状況で前輪が激しく空転した場合、後輪への電力供給がカットされる制御が働くため、いわゆる本格的な四輪駆動車に求められるような、悪路からの優れた脱出性能は期待できません。

システムの作動

e-4WDシステムは、運転席に設けられたスイッチによって、その作動状態を任意にオン／オフ切り替えることが可能です。スイッチがオンの状態で車両が発進すると、システム専用の発電機がエンジンの回転を利用して電力を生成し、これを後輪の駆動ユニットに供給します。これにより、車両は低速域で四輪駆動状態となります。

そして、車両が約30km/h以上の速度に達すると、発電機は自動的に停止し、駆動方式は前輪駆動へと切り替わります。再び速度が低下したり、滑りやすい路面状況を感知したりすると、システムは必要に応じて再作動します。四輪駆動での走行中は、前後輪のトラクション（駆動力）を常に電子制御で適切に管理することで、凍結路面や積雪路面でも安定した発進・走行をサポートします。なお、電子制御による緻密な連携が不可欠なため、駆動系が電子制御されていないマニュアルトランスミッション搭載車には、このシステムは採用されませんでした。

ハイブリッドシステムとの違い

e-4WDは、エンジンとモーターという異なる動力源を組み合わせている点ではハイブリッド（混成）とも言えます。しかし、一般的なハイブリッドカーのように駆動用の二次電池（バッテリー）を搭載しておらず、駆動ユニットへの電力は専用発電機から直接供給されるという点が大きく異なります。このため、e-4WD搭載車は通常、ハイブリッドカーとは分類されません。

二次電池を持たないことによるメリットとしては、高電圧バッテリーに起因する整備時や事故発生時の感電・電気火災リスクが低いことが挙げられます。日本国内においては、ハイブリッドカーの整備に必要とされる低圧電気取扱者特別教育の受講が不要とされるなど、整備性のメリットも指摘されています。一方で、二次電池がないため、減速時のエネルギーを電気に変換して再利用する回生ブレーキ機能は利用できません。

歴史と搭載車種

e-4WDシステムは、当初は開発元である日立製作所と同じ企業グループに属する日産自動車のみに供給されていましたが、後にマツダにも供給が拡大されました。

このシステムを搭載した車種は、2020年6月時点では日本市場向け4代目マーチにのみ設定が残されていましたが、同年7月の一部改良でe-4WD仕様が廃止されたことにより、事実上、e-4WDを採用する乗用車は日本のラインナップから姿を消しました。

e-4WDが搭載されていた主な車種（いずれも日本市場向け）は以下の通りです。

日産: マーチ（3代目、4代目）、キューブ（2代目、3代目）、キューブキュービック、ティーダ、ティーダラティオ、ノート（初代、2代目）、ブルーバードシルフィ（2代目）、ウイングロード（3代目）
マツダ: デミオ（2代目、3代目）、ベリーサ

二次電池を持たずに内燃機関で発電した電力でモーターを駆動するという点では、鉄道車両などで見られるディーゼル・エレクトリック方式やガス・エレクトリック方式といったシステムと共通する側面があります。

もう一度検索