EIF4EBP1

EIF4EBP1（4E-BP1）

EIF4EBP1（eukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1）は、ヒトでは`EIF4EBP1`遺伝子によってコードされるタンパク質です。このタンパク質は、細胞内におけるタンパク質合成の速度を精密に調節する上で中心的な役割を果たしています。

機能と翻訳制御

4E-BP1の主要な機能は、キャップ依存的な翻訳開始を抑制することにあります。翻訳開始因子であるeIF4Eに直接結合することで、この抑制作用を発揮します。
eIF4Eは、mRNAの5'末端に存在するキャップ構造を認識し、リボソームの40SサブユニットをmRNA上に呼び込むためのタンパク質複合体（eIF4F）を形成する上で、律速段階となる因子です。4E-BP1がeIF4Eに結合すると、eIF4F複合体の組み立てが妨げられ、結果としてタンパク質の翻訳開始が抑制されます。

この抑制は、細胞が利用可能な栄養やエネルギーの状態、成長因子シグナルなどに依存して解除されます。その鍵となるのが、4E-BP1自身のリン酸化です。

リン酸化による制御

4E-BP1の機能は、リン酸化によってダイナミックに調節されています。リン酸化された4E-BP1はeIF4Eからの解離を引き起こし、これによりeIF4EはeIF4F複合体の形成に参加できるようになります。その結果、キャップ依存的な翻訳が進行し、タンパク質合成速度が上昇します。

4E-BP1のリン酸化は、上流のシグナル伝達経路、特にmTOR（mechanistic Target of Rapamycin）シグナルの活性化を示すマーカーとしても広く用いられています。

4E-BP1には、少なくとも7箇所のリン酸化部位が存在します。これらの部位の中でも、リン酸化の開始点となるThr37およびThr46、それに続くThr70、そして最終的なリン酸化部位とされるSer65などが特に重要視されています。しかしながら、Ser65やThr70といった特定の部位のみがリン酸化されても、4E-BP1による翻訳抑制を完全に解除するには十分ではないことが示唆されています。タンパク質合成速度の大幅な上昇は、複数のリン酸化イベントが複合的に起こることで促されると考えられています。

リン酸化は、紫外線照射やインスリンシグナルなど、様々な細胞外からの刺激や細胞内の状態変化に応答して発生します。

疾病との関連

4E-BP1の高レベルなリン酸化は、ヒトの様々ながんにおいて広く報告されています。いくつかの種類のがんでは、4E-BP1の異常な活性化（過剰なリン酸化）が、腫瘍の進行や治療抵抗性、あるいは予後不良と関連することが指摘されており、治療標的としての可能性も研究されています。

相互作用する因子

4E-BP1は以下の因子と相互作用することが確認されています。

eIF4E
RPTOR
* mTOR

これらの相互作用を通じて、4E-BP1は細胞の成長、増殖、代謝などの重要な生命現象において、タンパク質合成の調節という基盤的な役割を担っています。

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