FACOM VP

FACOM VP

FACOM VPは、日本の大手コンピュータメーカーである富士通が1980年代に開発・製造・販売を行ったベクトル型スーパーコンピュータの名称です。このシリーズは、1982年7月に最初のモデルが発表され、当時の日本の商用スーパーコンピュータ市場の立ち上げを牽引した製品の一つと位置づけられています。同時期には日立製作所のHITAC S-810（1982年8月）やNECのSX-2（1983年4月）なども相次いで登場し、日本国内でスーパーコンピュータ開発競争が活発化しました。

市場背景と戦略

FACOM VPシリーズは、1990年に後継となるVP2000ファミリーが登場するまで、長期にわたり販売が継続されました。その開発には、日本の通商産業省（現経済産業省）からの資金援助が深く関わっており、これは当時スーパーコンピュータ市場で先行していたクレイリサーチなどの米国企業に対抗し、日本の技術力と市場競争力を確立するための国家的な戦略の一環でもありました。国内市場では主に富士通自身が販売を手掛け、数多くのシステムが大学や研究機関、企業の計算センターなどに導入されました。海外市場においては、米国ではアムダール、欧州ではシーメンスといった現地のパートナー企業を通じて販売網が構築されました。しかし、1980年代末から1990年代初頭にかけての冷戦終結は、スーパーコンピュータの主要な需要層であった防衛関連分野の需要を大きく減少させ、市場は急速に縮小しました。この市場環境の変化は、日本のコンピュータメーカー各社がスーパーコンピュータ事業への大規模な投資を見直し、他の事業分野へ経営資源をシフトさせる判断を促す要因の一つとなりました。

技術開発と製品ラインアップ

富士通は、FACOM VPシリーズの商用化に先立ち、1977年には既存の大型メインフレームであるFACOM 230-75に接続する形で、ベクトル演算を高速化するための試作プロセッサを開発していました。このプロトタイプは、当時の代表的なスーパーコンピュータであったCray-1と多くの類似点を持ちながらも、ベクトルチェーン機能を持たない点で異なり、性能面では若干劣る部分がありました。しかし、この開発で培われた技術と、1970年代後半にスーパーコンピュータの開発・保有が国威発揚の象徴と見なされていた時代背景を受け、富士通はこれを単体で動作可能な商用システムとして展開することを決定。高性能なスカラープロセッサとベクトルプロセッサを統合したオールインワン設計での商用化を目指しました。

その開発 effortsが実を結び、1982年7月に初代モデルとしてFACOM VP-100とVP-200が発表されました。これらのモデルは、主に動作周波数に差があり、公表されたピーク性能はVP-100が250MFLOPS、VP-200が500MFLOPSでした。ユーザーがベクトル計算を効果的に利用できるよう、専用のFORTRANコンパイラ（FORTRAN77/VP）や、既存のプログラムをベクトル化するのを支援する対話型ベクタライザ、さらに科学技術計算に必須となる数値演算サブルーチンライブラリなども同時に提供されました。その後、より導入しやすい価格帯のローエンドモデルとしてVP-30およびVP-50が追加されました。計算性能をさらに強化するため、1986年には2つのベクトルパイプラインを持つVP-400が投入されます。そして翌1987年には、シリーズ全体のアーキテクチャが見直され、1クロックサイクルで乗算と加算の結果をそれぞれ2つ出力できる高性能なベクトル演算ユニットを搭載した新しいモデル群が登場。これにより、VP-30E、VP-50E、VP-100E、VP-200E、VP-400Eといった『Eシリーズ』がラインアップされました。

設計上の課題

革新的な設計であったFACOM VPシリーズですが、設計上の課題も存在しました。例えば、ロード/ストア命令を実行するメモリインターフェースユニットが一つのみであったため、主記憶へのアクセス帯域幅に限界がありました。シリーズ最上位機種であるVP-400Eにおいても、ピーク時のメモリ帯域幅は4.57 GB/sに留まりました。この制約は、特に64ビット浮動小数点演算を多用するワークロードにおいて、ベクトル演算器の理論的な最大性能（例えばVP-400Eの500MFLOPS相当）を十分に引き出せず、実効性能を0.5 GFLOPS程度に制限する要因となることが指摘されました。同時期の米国製スーパーコンピュータ、例えばCray-2は、このメモリ帯域の問題解決に注力しており、単一プロセッサあたり約2 GB/s、そして最大4つのプロセッサを搭載することで、システム全体としてより広帯域なメモリ性能を実現していました。

FACOM VPシリーズは、その後の日本のスーパーコンピュータ開発の礎となり、富士通の高性能計算分野における地位を確立する上で重要な役割を果たしました。

関連項目

FACOM
VP2000

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