FACOM

FACOM：富士通のコンピュータブランドの歴史



FACOM（ファコム）は、富士通が自社製コンピュータに使用していた商標で、“Fujitsu Automatic COMputer”に由来します。1990年5月に「FUJITSU」ブランドに統合されるまで、主要なコンピュータ製品に使用されました。アメリカでは「フェイカム」と発音されることもあります。

リレー式計算機から始まるFACOMの歴史



FACOMの歴史は、1954年10月に池田敏雄、山本卓眞、山口詔規らが完成させたリレー式計算機FACOM 100から始まります。FACOMの番号は、100番台がリレー式、200・210番台がパラメトロン式、それ以降が電子式（トランジスタ、集積回路）となっています。

初期には番号に規則性があり、下2桁が00は試作機、10の位は順番、1の位は計算機の桁数を表していました。また、10の位が0は科学用パラメトロン、1は事務用パラメトロン、2は大型汎用トランジスタ、3は科学用トランジスタ、4は事務用トランジスタという区分もありましたが、これらの規則は230シリーズ以前のものです。300番以降の番号は、初期にはコンピュータに使われていましたが、後に周辺機器にも使用されるようになりました。

リレー式計算機はプログラム制御方式を採用していますが、プログラム内蔵方式であるかどうかについては議論があります。情報処理学会のコンピュータ博物館ウェブサイトでは、FACOM 128Aを「プログラム非内蔵」としています。

FACOM開発の経緯



富士通信機製造（富士通の前身）では、1935年頃からリレーを使った演算回路の試作を行っていました。1943年には海軍からの委託で暗号解読装置を製作しています。戦後、東京都統計課のIBM製統計会計機の代替として、電気式分類集計機「山下式画線統計機」を製作しました。

1952年には、東証から株式取引高精算装置の開発が打診されましたが、試作機は採用されませんでした。しかし、この経験が後のFACOM開発に大きな影響を与えました。特に、リレーの接触不良問題の対策として、自己検査回路を搭載し信頼性を向上させることが、後のFACOM 100の成功につながりました。

FACOM 100



FACOM 100は、富士通が最初に製作したコンピュータであり、日本最初期のリレー式計算機の一つです。当時、真空管よりも寿命が長く故障率が低いリレーが採用されました。FACOM 100は十進法計算機で、演算装置には3増し符号を使用し、パリティ的なチェックを行っていました。ノーベル賞受賞者の湯川秀樹が「人手では2年はかかる多重積分を3日で解いた」と高く評価しました。

FACOM 100は試作機でしたが、計算サービスを提供し、官民学の計算需要に応えました。また、池田敏雄によれば、FACOM 100に続きFACOM 118という計算機が完成予定だったとされています。

FACOM 128



1956年に完成したFACOM 128は、富士通初の商用コンピュータです。インデックスレジスタや割込み機能が搭載され、自己検査回路で誤動作を検知し自動的に再計算する機能も備わっていました。二五進法を使用し、符号の冗長性を利用したチェックを行っていました。また、リレーの接点構成にも工夫が凝らされていました。FACOM 128Bは、富士通沼津工場「池田敏雄記念室」に保存されており、見学可能です。

FACOM 138A



1960年に完成したリレー式計算機FACOM 138Aは、128Aの廉価版です。富士通川崎工場で動態保存されています。FACOM 128Bや138Aにはレンズ計算用プログラムがあり、カメラメーカーからの需要がありました。

その他のリレー式FACOM



顧客に応じて設計された小型の専用計算機として、FACOM 415A、FACOM 318A、FACOM 416A、FACOM 426A、FACOM 426B、FACOM 514A、FACOM 524A、自己相関係数計算機などが存在します。これらの機種は、光学計算、統計、相関係数計算、事務処理など様々な用途に使用されました。

パラメトロン式計算機



富士通はリレー式の後、パラメトロンを使ったコンピュータ開発を行いました。東大高橋研究室と共同で研究開発を行い、最速のパラメトロン機FACOM 202を開発しました。

  • - FACOM 200: 1958年9月完成の試作機。
  • - FACOM 201: 1959年、MUSASINO-1Bを製品化したもの。コアの機械的振動による妨害への対策に苦心しました。
  • - FACOM 202: 1960年完成。高橋研究室と共同開発したPC-2を元に製品化。パラメトロンコンピュータとして最速の動作周波数60キロヘルツを達成しました。
  • - FACOM 212: 1959年4月出荷。事務処理向け商用機。

初期トランジスタ機



富士通はETL Mark IVをベースにしたトランジスタ機を製造しませんでした。また、他社がトランジスタ数を節約するために動的なフリップフロップを使っていたのに対し、富士通は静的な回路を採用しました。

貨報計算機



トランジスタ式ではありませんが、富士通が製造した唯一の真空管式電子計算機である貨報計算機があります。国鉄が設計し、富士通が製造したもので、日本初の磁気コアメモリを採用した実用機です。

FACOM 222



富士通初のトランジスタ採用モデルで、1961年に製作されました。1万語のコアメモリを搭載し、最大10台の磁気ドラムを接続可能でした。222の語呂合わせで、「フ・ジ・ツー」と呼ばれていました。

FACOM 231



1963年完成。可変長ワード指向で汎用機を目指し、主記憶にコアメモリを使用しました。

FACOM 230シリーズ



1964年、IBMがSystem/360を発表した影響を受け、富士通もFACOM 230シリーズを展開しました。FACOM 230は、中小型では可変語長方式、大型では固定語長方式を採用した独特なファミリでした。

  • - FACOM 230 / FACOM 230-30: FACOM 231の機能を包含し高速化。
  • - FONTAC / FACOM 230-50: 国策により富士通、沖、日電が共同開発したFONTAC Centralをベースに製品化。
  • - FACOM 230-10: シリーズ最小だが、仮想記憶を搭載。
  • - FACOM 230-60: 日本初のIC採用機種で、マルチプロセッサ構成。
  • - FACOM 230-5 シリーズ: 16ビットマシンでICメモリと仮想記憶を搭載。
  • - FACOM 230-45S, 230-55: ハードウェアによる仮想記憶を採用。
  • - FACOM 230-75: FACOM 230-60の後継機で、アレイプロセッサを追加。
  • - FACOM 230-75 APU: 科学技術計算向けにパイプライン方式のアレイプロセッサを搭載。

FACOM 270シリーズ



科学計算・プロセス制御向けに開発されたシリーズで、オンライン・リアルタイム処理に対応しました。

FACOM Mシリーズ (メインフレーム)



日立製作所と技術提携し、IBM System/360・System/370のプラグコンパチブルのメインフレームを開発しました。Mシリーズの「M」は通産省（MITI）に由来します。

  • - FACOM M-190: 富士通初のIBM互換機で、世界初のLSI採用メインフレーム。
  • - FACOM M-200: 最大4CPUのマルチプロセッサ構成。
  • - FACOM M-130F, M-140F, M-150F, M-160F, M-170F: 日本語処理機能JEFを搭載。
  • - FACOM M-380, M-382: 31ビットアドレス空間をサポートした超大型機。
  • - FACOM M-780: 10,000ゲート/チップのECL LSIを採用した超大型機。

VPシリーズ (スーパーコンピュータ)



ベクトル型スーパーコンピュータのシリーズです。FACOM 230-75 APUが実質的に初のスーパーコンピュータとされます。クレイ、日本電気のSXシリーズ、日立のSシリーズと共に世界を舞台に競争しました。

  • - FACOM VP-100, VP-200: 最大500 MFLOPSを達成。
  • - FACOM VP-400: 世界で初めて1GFLOPSを超えた処理性能。
  • - VP2000ファミリ: 5GFLOPSを超える処理性能。

オフコン・ミニコン・言語マシン・ワークステーション



  • - FACOM α: LISPマシンで、Mシリーズのバックエンドとして使用。
  • - FACOM R: デスクトップサイズのミニコン。
  • - FACOM U-200: 多目的制御用16ビットミニコン。
  • - FACOM Mate: 教育機関向けのオールインワンミニコン。
  • - FACOM V0: ビジネス向けのミニコン。
  • - FACOM Bm: FACOM V0シリーズの下位機種。
  • - FACOM S-3000シリーズ: 富士通初の32ビットスーパミニコン。
  • - FACOM Aシリーズ: 32ビットスーパーミニコン。
  • - FACOM 9450: ビジネス向けパーソナルコンピュータ。
  • - FACOM Vシリーズ: 汎用コンピュータFACOM Mシリーズの下位の位置づけ。
  • - FACOM K シリーズ: USACカマラードのOEM品、デスクトップ型オフコン。
  • - FACOM G シリーズ: UNIXワークステーション。

その後の富士通コンピュータ



1990年5月以降、「FACOM」のブランド名は廃止され、「FUJITSU」に変更されました。

スーパーコンピュータはVPPシリーズに、メインフレームはFUJITSU Mシリーズ、オフィス[[コンピュータ]]はFMGシリーズに引き継がれました。UNIXサーバ・ワークステーションは独自アーキテクチャ系とサン・マイクロシステムズ社のSolaris搭載オープンアーキテクチャ系が併売され、PCサーバはFMRシリーズ、FMサーバ、GRANPOWERシリーズへと進化しました。

パーソナルコンピュータでは「FM」シリーズが使われています。

参考文献




外部リンク



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