VP2000

富士通のベクトル型スーパーコンピュータ、VP2000シリーズは、1988年12月に発表された同社スパコン開発の第2世代にあたります。先行するFACOM VPシリーズの後継として性能と機能が大幅に強化され、当時の科学技術計算を牽引しました。後のスーパーコンピュータの主流が超並列処理へと移る中で、VP2000シリーズは1995年に登場した超並列スーパーコンピュータVPP300シリーズへと道を譲ることになります。

VP2000シリーズは、レジスタベースの高性能ベクトルプロセッサを採用しました。この設計は先行機種や他社製スパコン（Cray-1など）と類似点が多く見られました。特に、ベクトルユニットはクロックサイクルごとに2つの結果を同時に完了できる特別な命令をサポートし、「チェーン」として知られるこの機能は、ベクトル計算の効率を飛躍的に高めるスーパーコンピュータの重要な技術です。
一方、メインのスカラー処理ユニットがベクトルユニットの約半分の速度で動作するという特徴がありました。アムダールの法則に従えば、コンピュータの全体性能は最も遅い部分に律速されます。もしプログラムがベクトル演算に十分な時間を費やさない場合、スカラーユニットの速度が全体の性能を制限し、実効性能が低下する可能性がありました。VP2000の性能を最大限に引き出すには、プログラムのベクトル化率を高く保つことが不可欠でした。

先行するFACOM VPシリーズの主要な課題の一つは、メモリ帯域幅の不足でした。プロセッサの高い処理能力に対し、データ供給が追いつかないボトルネックが発生しがちでした。VP2000シリーズでは、この課題を克服するため、スカラーユニットに2番目のロード/ストアユニットを追加し、メモリ帯域幅を実質的に2倍に強化しました。これにより、ベクトルユニットが必要とする大量のデータをより迅速に供給できるようになり、プロセッサの利用率と実効性能が大きく向上しました。

VP2000シリーズは多様なモデルが提供されました。ローエンドのVP2100は8ナノ秒サイクルで0.5 GFLOPS、ミッドレンジのVP2200/VP2400は4ナノ秒サイクルで1.25～2.5 GFLOPS、最上位のVP2600は3.2ナノ秒サイクルで5 GFLOPSのピーク性能を実現しました。
構成もスカラープロセッサ数により選択可能でした。スカラー1基の/10、2基の/20、そしてVP2200/2400では4基の/40構成が用意されました。スカラーユニットの追加は、メモリ帯域幅の増加に加え、複数の処理を並行することでベクトルユニットの活用率を高め、全体の性能を向上させました。各ユニットの性能が1.5倍になると評価され、例えばVP2400の/40構成は、先行モデルであるVP2600の/20構成に匹敵するとされました。

オペレーティングシステムは、UNIX互換のUXP/MとMVS互換のVSP/Sが提供され、それぞれCやFORTRANに対応した高性能ベクトル化コンパイラが用意されました。
スーパーコンピュータが超並列処理へと移行する時代背景もあり、VP2000シリーズの販売期間は長くありませんでしたが、その高性能により多くのユーザーに導入され、100台以上が販売、1993年7月には180台が稼働していました。VP2000シリーズは、日本のベクトル型スーパーコンピュータの成熟期を代表する機種の一つとして、科学技術計算の発展に貢献しました。

もう一度検索