FON

概要

FON（フォン）は、無線LANを利用してインターネットアクセスを会員間で相互に共有することを可能にするユニークなシステム、およびそれを提供する企業です。世界最大級のグローバルWi-Fiコミュニティとして知られ、150カ国を超える国々で2300万以上のアクセスポイントを有しています。特にイギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、ロシア、ポルトガル、ベルギー、日本といった国々では、現地の主要な通信キャリアやインターネットサービスプロバイダーとの業務提携や資本提携を通じて、FONのサービスが広範に普及しています。一方で、こうした提携関係がない国では、その普及度は限られています。

FONコミュニティのメンバーとなることで、参加者は自身の家庭に設置した専用の無線LANルーターの一部を、他のコミュニティメンバーが利用できるアクセスポイントとして提供することに同意します。この共有の対価として、メンバーは世界各地に点在するFONのアクセスポイント（FONスポット）を特別な費用負担なく自由に利用できるようになります。このシステムは、参加者が増えるほど利用可能なFONスポットの数が増加するという、相互扶助的な利点を持っています。これにより、外出先や旅行先など、様々な場所で手軽にインターネットにアクセスできる環境が拡大していきます。

仕組みと利用区分

FONの利用者は「Fonero（フォネロ）」と呼ばれ、サービスの利用形態に応じて以下の3つの区分に分類されます。

Linus（ライナス）: 自身の無線ルーターを常時他のメンバーと共有する見返りに、世界中のFONアクセスポイントを無料で利用できます。この名称はLinux開発者のリーナス・トーバルズ氏に由来しています。
Bill（ビル）: アクセスポイントを提供することで、他のユーザーからの利用料の一部（50%）を報酬として受け取ります。自身が他のアクセスポイントを利用する際は費用が発生します。この名称はマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏に由来します。
* Alien（エイリアン）: 自身のアクセスポイントを提供する必要はありませんが、有料で提供されているアクセスポイントを利用できます。その名の通り「異邦人」を意味します。

ただし、日本においては現在、Linusとしての参加形態のみが提供されており、Billとして報酬を得たり、Alienとして有料で利用するサービスは提供されていません。これは、有料サービス提供に関わる日本の電気通信事業法に基づく複雑な手続きが理由とされています。

FONのルーターは、プライベート用とパブリック用の二つの無線ネットワーク（SSID）を同時に発信することでセキュリティを確保しています。プライベートSSID（初期設定名「MyPlace」など）は設置者個人のみが利用でき、暗号化されています。一方、パブリックSSID（「FON_FREE_INTERNET」や「FON_XXXXXX」など）はFONコミュニティメンバー向けで、Web認証を経てアクセス可能ですが、プライベートネットワーク内の機器には接続できないよう分離されています。

沿革

FONを提供する企業は、2005年11月にスペインで創業されたベンチャー企業です。創業者はマーティン・バーサフスキー氏。日本においては、2006年 8月10日にフォン・ジャパン株式会社が設立され、同年12月4日より本格的なサービス提供が開始されました。

創業当初から、GoogleやSkype、Index Ventures、Sequoia Capitalといった著名な企業・VCからの多額の出資を受けて注目を集めました。日本でも、Googleに加え伊藤忠商事やエキサイトなどが追加出資を行い、事業拡大を後押ししました。サービス開始後、日本国内のアクセスポイント数および会員数は急速に増加し、2007年10月には一時、日本が世界で最もFONスポットが多い国となりました。

過去にはソフトバンクモバイルとの提携により、同社のiPhoneユーザーなど向けにFONルーターが無料配布された時期もありましたが、SSID「FON」に関する運用上の違いから「偽FON」問題が発生し、後に提携は解消されました。livedoor Wirelessとの提携も行われていましたが、こちらも終了しています。近年では、ワイヤレスゲートと協力してルーター販売を行うほか、2020年9月からは超高速光インターネットサービス「Fon光」の提供を開始するなど、事業の多角化も進めています。

特徴と利用エリア

FONのアクセスポイントは、一般的な駅や商業施設に多い公衆無線LANとは異なり、個人の自宅に設置されたものが大半を占めます。そのため、都市部の中心部よりも住宅街にFONスポットが多く存在するという特徴があります。日本においてはLinus形態のみのため、インターネットサービスプロバイダーとの契約は別途必要ですが、自身がアクセスポイントを提供すれば、自宅外のFONスポットを無料で利用できる利便性があります。

注意点と法的側面

FONを含む公衆無線LANは、利用にあたって一定のセキュリティリスクが伴う場合があります。また、自身の契約しているインターネット回線をFONとして他者に提供することが、契約しているISPの利用規約に違反する可能性があるため、事前に契約内容を確認することが推奨されます。日本でBill型のサービスが提供されない背景には、営利目的での無線アクセス提供が日本の電気通信事業法における電気通信事業に該当し、煩雑な手続きが必要となる事情があります。

地域社会での活用

FONは、日本各地の自治体やNPOによって、地域活性化や町おこしの一環として活用された事例があります。例えば、山形県酒田市、千葉県船橋市、広島県呉市、福岡県福岡市（天神地区）、長崎県南島原市などでは、FONを利用したWi-Fi環境の構築が進められ、観光振興や商店街活性化に繋げる取り組みが行われました。

製品

FONは、サービス利用のための専用無線LANルーターを提供しています。これらはOpenWrtというオープンソースソフトウェアをベースにしたカスタムファームウェアで動作し、前述のようにプライベート用とパブリック用のSSIDを分離して発信します。代表的な製品には、初期の「La Fonera」シリーズ（La Fonera, La Fonera+, La Fonera 2.0/2.0n）や、比較的新しい「Fonera mini」などがあります。過去にはソフトバンクから配布された特製ルーターも存在しましたが、これらは運用形態が異なりました（いわゆる偽FON）。

現在、フォン・ジャパンは「Fon光」サービスを提供しており、これはソニーネットワークコミュニケーションズの高速回線を利用したもので、対応ルーターが標準装備されます。

FONはその革新的な共有モデルにより、世界中で多くのWi-Fiスポットを生み出し、人々のインターネット利用スタイルに新たな選択肢を提供しています。

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