リーナス・トーバルズ

リーナス・トーバルズとは

リーナス・ベネディクト・トーバルズ（Linus Benedict Torvalds、1969年12月28日 - ）は、フィンランドのヘルシンキ出身のアメリカ合衆国のプログラマーです。彼は、1991年に公開されたLinuxカーネルの開発者として世界的に知られています。現在もLinuxカーネルの最終的な調整役、いわゆる「優しい終身の独裁者」として、その開発を牽引しています。

生い立ちと教育

1969年、ヘルシンキでジャーナリストの父と母のもとに生まれたトーバルズは、スウェーデン語を話す少数派の家庭で育ちました。彼の名前は、ノーベル賞受賞者のライナス・ポーリングにちなんで名付けられました。

ヘルシンキ大学で計算機科学を学び、1996年に修士号を取得。修士論文では「Linux: 移植性の高いオペレーティングシステム」をテーマに研究しました。

学生時代には、アンドリュー・タネンバウムの著書『オペレーティングシステム‐設計と理論およびMINIXによる実装』に大きな影響を受け、これがLinux開発のきっかけとなりました。

Linuxカーネルの開発

トーバルズは、MINIXに触発され、自宅のパーソナルコンピュータで動作するUNIX系OSの必要性を感じました。自身の趣味と自宅の設備を活用し、Linuxカーネルの初期開発に着手しました。

当初、このOSは「Linux（Linus's Minix）」という名前で呼ばれていましたが、自己中心的すぎるという理由から、友人との議論を経て「Freax」という名前に変更しようとしました。最終的には、友人が提供したFTPサーバのディレクトリ名「linux」がそのまま正式名称となりました。

1991年8月、トーバルズは自身の成果物をUsenetニュースグループで公開。これがLinuxの歴史の始まりです。

現在、トーバルズ自身が書いたLinuxカーネルのコードは全体のわずか2％程度ですが、彼は今もカーネルに新しいコードを追加する際の最終決定者として、その開発に深く関わっています。

開発思想とLinuxの普及

トーバルズの活動は、エリック・S・レイモンドの論文「伽藍とバザール」で紹介された「リーナスの法則」（「目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない」）というオープンソース開発の原則を普及させるきっかけになりました。この法則は、多くの開発者が協力すれば、バグは容易に発見・修正できるという考え方を示しています。

トーバルズは、他のオープンソース活動家とは異なり、比較的控えめな姿勢を保っています。しかし、マイクロソフトのWindowsやAppleのmacOSといった競合OSに対しては、辛辣な批判をすることも少なくありません。

一方で、GNUプロジェクトとは、トランスメタでの独占的ソフトウェア開発や、BitKeeperの利用などをめぐり対立したこともあります。しかし、独占的ソフトウェア開発企業による反Linuxの動きに対しては、強く反論してきました。

社会的な認知と評価

トーバルズは、その功績により多くの賞や栄誉を受けています。2000年にはタイム誌の「今世紀の100人」に選ばれ、2001年には武田賞を受賞しました。また、2004年にはタイム誌の世界で最も影響力のある人物の一人に選ばれています。

Linuxコミュニティの中には、トーバルズを神のように崇める人もいますが、彼自身は、そうした過剰な賞賛に困惑していると自著で語っています。

また、スティーブ・ジョブスからアップルへの誘いがあったものの、Linuxの開発を続けることを優先し、断ったエピソードも有名です。

Linuxの商標とコミュニティ

トーバルズは「Linux」の商標を保有しており、世界中のLinuxコミュニティの協力を得て、その使用を監視しています。商標を取得したのは、第三者による不正な商標登録を防ぐためでした。

Linuxは、トーバルズが開発したカーネルと、他の開発者によるソフトウェア（特にGNUソフトウェア）が組み合わさってできています。そのため、「GNU/Linux」という名称も使われることがあります。

まとめ

リーナス・トーバルズは、Linuxカーネルの開発を通じて、コンピューターの世界に大きな変革をもたらしました。彼の開発思想やオープンソースへの貢献は、今日でも多くの人々に影響を与え続けています。

参考文献

Linus Torvalds, David Diamond: Just for Fun: The Story of an Accidental Revolutionary, New York, HarperBusiness, 2001, ISBN 0-06-662072-4
（和訳版）リーナス・トーバルズ, デビッド・ダイヤモンド　風見潤 訳: それがぼくには楽しかったから, 東京, 小学館, 2001, ISBN 4-7968-8001-1

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