FP-45

FP-45：第二次世界大戦の影に潜むピストル

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツの占領下に苦しむヨーロッパの人々を支援するため、アメリカは秘密裏に画期的な拳銃を開発しました。その名はFP-45、通称「リベレーター」または「ウールワース・ガン」。安価で大量生産可能な設計で、わずか3ヶ月で100万丁以上という驚異的な数を製造したのです。

開発と大量生産

1942年、ポーランド亡命政府からの要請を受け、アメリカ陸軍は一般兵士の装備調達に影響を与えない、安価で迅速に生産できる武器の開発に着手しました。ゼネラルモーターズ社のジョージ・ハイド率いるチームが、プレス加工された鋼材と滑腔銃身を用いた簡素なピストルを設計。当初は、抵抗運動員が敵兵からより強力な武器を奪うための「きっかけ」となることを想定していました。

開発は極秘裏に進められ、FP-45というコードネームで、設計図には銃身が「チューブ」、引き金が「継鉄」と表記されるなど、細心の注意が払われました。生産はゼネラルモーターズのガイドランプ部門が担当。約300人の従業員は秘密保持の誓約を行い、24時間体制で作業を進め、1942年8月には100万丁の生産目標を達成しました。その製造速度は、平均7.5秒に1丁という驚異的なものでした。

運用とその後

当初はヨーロッパへの空中投下が計画されていましたが、アイゼンハワー大将の反対により、多くは太平洋戦線へ送られました。しかし、現地指揮官からの関心は低く、大規模な投下は行われませんでした。結局、FP-45の多くは戦略諜報局（OSS）によって運用されることになります。OSS職員は、その安価さからFP-45を「ウールワース・ガン」と呼んでいました。

ヨーロッパ戦線では、より実用的なステンガンやM1カービンが抵抗運動に供給されたため、FP-45の活躍は限定的でした。一方、太平洋戦線では、中国やフィリピン、ベトナムなど、各地のゲリラが使用した記録が残っています。

戦後、残存していたFP-45の大部分は廃棄されました。

FP-45の性能

FP-45は.45ACP弾を使用する単発拳銃です。ライフリングのない滑腔銃身は、簡単に製造できる反面、精度や射程距離（約15m）は劣悪でした。グリップ内には予備弾を収納できるスペースがあり、マニュアルはウォルト・ディズニーが手掛けた漫画のようなイラストで構成されていました。製造コストはわずか2.10ドルほどでした。

射撃試験では、多くの銃が10～15発程度の射撃で破損するなど、品質管理に課題が見られました。しかし、至近距離での使用を想定していたため、この点は問題視されませんでした。

文化におけるFP-45

FP-45は、その特異な歴史から、多くの小説、映画、アニメ、ゲームなど、様々な作品に登場しています。その簡素な設計、大量生産という背景、そして秘密裏に行われた開発と運用など、FP-45は、歴史的にも文化的にも興味深い存在と言えるでしょう。

まとめ

FP-45は、第二次世界大戦という激動の時代における、アメリカ政府の戦略、そして技術力の限界と可能性を象徴する存在です。その簡素な設計と驚異的な生産速度、そして不透明な運用状況は、今も多くの謎を残したまま、歴史に刻まれています。戦争という悲劇的な背景の中で生まれた、特殊なピストルの物語は、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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