Far East (太田裕美のアルバム)

Far East

『Far East』（ファー・イースト）は、シンガーソングライター太田裕美が1983年に発表した通算16枚目のオリジナル・アルバムです。本作は同年中にCD化もされています。

解説

このアルバムは、太田裕美が前年に約8ヶ月間にわたりニューヨークに滞在し、活動を休止していた期間を経て、帰国後に初めて制作された復帰第一作として位置づけられます。

アルバム全体のコンセプトとして、アナログ盤のA面を「ニューヨークサイド」、B面を「東京サイド」と明確に区分し、それぞれの都市が持つ空気感や情景を描き出す試みが行われています。本作の制作には、後に太田氏の伴侶となる福岡知彦氏がディレクターとして初めて参加しており、ニューヨークサイドは太田氏自身が、東京サイドは福岡氏が担当するという形でディレクションが進められました。

ニューヨークサイド

ニューヨークサイドの楽曲は、太田氏がニューヨーク滞在中に現地の友人から紹介されたシンガーソングライター、マーガレット・ドーンの作品が基盤となっています。彼女の持つ豊かな楽曲の世界観に感銘を受けた太田氏は、ニューヨークサイド用の曲として提供を受けました。これらの楽曲には、神田広美氏と竜真知子氏がそれぞれの訳詞を手がけ、日本語の歌として表現されています。

ニューヨークサイドの5曲（アルバムの1曲目から5曲目）は以下の通りです。

Drifter: サビ部分で聴かれる太田氏のシャウトが特に話題となりました。
Save A Little Love
Midnight: ニューヨークらしい雰囲気を出すため、著名なトランペット奏者である日野皓正氏に演奏を依頼し、楽曲に彩りを添えています。
Kiss Me: この楽曲は、後にカーペンターズがカレン・カーペンターの死後に発表したアルバム『愛の軌跡〜ラヴラインズ』（1989年）の中で、「Kiss Me the Way You Did Last Night」というタイトルでカバーし、収録されています。
Broken Promises

ニューヨークサイドの楽曲は、LINDA LAWLEY氏が作詞、MARGARET DORN氏が作曲、萩田光雄氏が編曲をそれぞれ担当しています。

東京サイド

一方、東京サイド（アルバムの6曲目から10曲目）は、日本国内の作家陣を中心に構成されています。編曲は全曲、大村雅朗氏が手掛けています。

東京サイドの5曲は以下の通りです。

窓から春の風: 作詞：下田逸郎、作曲：網倉一也
City Magic: 作詞：KURO、作曲：西岡恭蔵
あのね: 作詞：康珍化、作曲：板倉文
あそび星: 作詞：下田逸郎、作曲：板倉文
ロンリィ・ピーポー: 作詞：下田逸郎、作曲：太田裕美

「ロンリィ・ピーポー」は特に印象的な楽曲で、本作を皮切りに、その後シリーズ化され、合計4作品が制作されることになります。

アートワークと制作スタッフ

アルバムジャケットは、上を見上げる太田氏の姿が捉えられ、その手元に球形に切り取られた風景が配置されたデザインとなっています。表面にはニューヨークの風景が、裏面には東京の風景が収められており、アルバムのコンセプトが視覚的にも表現されています。

レコーディング・エンジニアは、数々の名盤を手掛けてきた吉田保氏が担当し、本作のサウンド面を支えています。

『Far East』は、太田裕美のキャリアにおいて、新たな制作体制と国際的な視点を取り入れた重要な作品であり、その後の活動にも影響を与える要素を含んでいます。特に「ロンリィ・ピーポー」に代表される東京サイドの楽曲と、マーガレット・ドーンとの共同作業から生まれたニューヨークサイドの楽曲が織りなすコントラストが魅力となっています。

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