G.729

G.729とは

G.729は、主に人の音声を対象とした音声圧縮アルゴリズムで、パケット化されたデジタル音声を10ミリ秒の短い遅延で圧縮することが可能です。この特徴から、特にVoIP（Voice over Internet Protocol）での利用が一般的です。

音声とその他の信号

G.729は、人の声の圧縮に特化しており、音楽やDTMFトーンといった音声以外の信号をそのまま伝送するには適していません。これらの信号をG.729で確実に伝送するには、RFC 2833で規定されているRTP Payload for DTMF Digits, Telephony Tones and Telephony Signalsを使用する必要があります。

また、14,400bit/sの標準的なG3ファックスは、G.729コーデックでの確実な転送は保証されません。通常、VoIPでファックスを扱う際にはG.711コーデックが用いられます。ネットワーク負荷が高い状況やパケットロスが発生しやすい環境では、アナログファックスの信頼性が低下するため、代替としてT.38ファックスが提案されています。

帯域幅と品質

G.729は、その必要とする帯域幅が狭いことから、特に帯域幅が限られた環境でのVoIP利用に最適です。標準的なG.729のビットレートは8kbit/sですが、拡張版として6.4kbit/sと11.8kbit/sのバージョンも存在します。6.4kbit/s版では若干音声品質が低下する一方、11.8kbit/s版ではより高品質な通話が可能になります。

特許とライセンス

G.729には、いくつかの企業のソフトウェア特許が関連しており、以前はSIPRO Lab Telecomがライセンスを管理していました。そのため、一部の国ではG.729を使用する際にライセンス料や特許使用料の支払いが必要でした。しかし、2017年1月以降、SIPRO Lab TelecomによってG.729はロイヤリティフリーであることが宣言され、現在ではライセンス料を支払うことなく利用できます。

G.729の拡張

G.729にはいくつかの拡張版が存在し、一般的にG.729aとG.729bと呼ばれています。

G.729a

G.729aは、G.729と互換性を保ちつつ、必要な計算処理能力を低減したバージョンです。計算量の削減と引き換えに、音声品質はわずかに低下します。

G.729aは、フランス・テレコム、三菱電機、日本電信電話（NTT）、シャーブルック大学が共同で設立したコンソーシアムによって開発されました。

G.729aの特徴は以下の通りです。

サンプリング周波数: 8 kHz/16-bit（10ミリ秒のフレームで80サンプル）
固定ビットレート: 8 kbit/s (10ミリ秒フレーム)
固定フレーム長: 10ミリ秒フレームの場合10バイト
アルゴリズムによる遅延: 15ミリ秒（先読み遅延5ミリ秒を含む）
ACELP（代数的符号励振線形予測）を採用
アルゴリズムの複雑度: 15（G.711を1とした場合。G.723.1では25）
理想条件でのPSQM（音質評価法）平均オピニオン評点: 4.04（[G.711]は4.45）
ネットワーク負荷条件下でのPSQM平均オピニオン評点: 3.51（[G.711]は4.13）

G.729b

G.729bは、無音圧縮(VAD)モジュールを使用し、音声がない部分を圧縮します。また、不連続送信(DTX)モジュールにより、音声のないフレームから周辺雑音レベルを特定・更新する機能も備えています。2バイトのSilence Insertion Descriptor (SID)フレームを用いて、快適雑音生成(CNG)の開始を通知します。これにより、話者が無音の場合でも、受信側がリンクの切断を誤認するのを防ぎ、アナログ回線のような自然な環境音をデジタルで再現します。

その他の拡張

G.729の音声周波数帯域を50Hzから7kHzの範囲に拡張したバージョンがG.729.1です。このコーデックは階層的な構成になっており、ビットレートと音声品質はビットストリームの切り捨てによって調整できます。

関連項目

音声符号化
CS-ACELP

外部リンク

ITU-T G.729 page
G.729 Error Recovery for Internet Telephony
ITU Patent database
Sipro Lab Telecom G.723.1 と G.729 のパテントプールを管理

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