GN-z11

GN-z11とは

GN-z11は、おおぐま座の領域に位置する、非常に高い赤方偏移を持つ銀河です。その名称は、天文学的観測プログラムである「Great Observatories Origins Deep Survey-North（GOODS-N）」の探査範囲にあり、発見当時に観測された高い赤方偏移の値（z = 11に近い）に由来しています。

GN-z11の分光観測によって得られた正確な赤方偏移は z = 10.957 です。この値に基づくと、現在の宇宙における地球からの実際の距離は約320億光年（約98億パーセク）に相当します。しかし、私たちがGN-z11を観測している光は、約134億年前にこの銀河を出発したものです。これは、ビッグバンからわずか約4億年後にあたる初期宇宙の姿を示しています。したがって、光が旅した道のりである「光行距離」は約134億光年と表現されることがありますが、これは宇宙の膨張によって現在の実際の距離とは大きく異なる点に注意が必要です。

発見とその意義

この特筆すべき銀河は、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた「Cosmic Assembly Near-infrared Deep Extragalactic Legacy Survey（CANDELS）」やスピッツァー宇宙望遠鏡による「Great Observatories Origins Deep Survey-North（GOODS-N）」など、複数の観測データの詳細な分析から発見されました。研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡の広視野カメラ3を使用し、GN-z11から届く光を波長ごとに分解する分光観測によって、その赤方偏移を精密に測定しました。宇宙の膨張により、遠方の天体から届く光はより長い波長（赤方）へとシフトして見えます。この赤方偏移の度合いを測ることで、天体までの距離や宇宙の膨張速度を知ることができます。

GN-z11の発見は2016年3月に発表され、当時の天文学界に大きな衝撃を与えました。なぜなら、その距離が、ハッブル宇宙望遠鏡が観測できると考えられていた限界をはるかに超えていたからです。GN-z11は、それまで最遠方・最古の記録を持っていた銀河EGSY8p7よりも約1億5,000万年も古い時代の天体であり、いわゆる宇宙の「暗黒時代」の終わりに近く、宇宙が再電離期に入ったばかりの極めて初期の段階を観測できたことになります。

銀河の特性と進化への示唆

GN-z11は、現在の私たちの銀河系と比較すると、サイズは約25分の1、質量は約1%と非常に小さい銀河です。しかし、驚くべきことに、新たな恒星を形成する活動は銀河系の約20倍以上も活発であると推定されています。形成された恒星の年齢は約4,000万年と見られており、これはGN-z11がビッグバン後の早い段階で急速に恒星を作り上げたことを示唆しています。

ビッグバンからわずか4億年という、宇宙史の非常に初期に、これほど活発に星形成を行い、ある程度の規模を持つ銀河が存在していたという事実は、現在の銀河形成モデルの一部に疑問を投げかけるものでした。初期宇宙における構造形成や銀河の進化に関する理解を進める上で、GN-z11のような天体は重要な手がかりとなります。

2020年には、W・M・ケック天文台を用いたさらなる観測が行われ、GN-z11からの光の中に、二階電離された炭素イオンや酸素イオンからの特定の輝線が検出されました。これにより、以前に測定されていた赤方偏移 z = 10.957 が確定し、GN-z11が確かに観測された天体の中で最も宇宙誕生に近い時代（最も遠方）に位置していることが改めて確認されました。

最遠方記録の更新

GN-z11は数年間、観測史上最も遠方の天体という記録を保持していましたが、2022年4月にその記録は更新されました。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などの観測によって、GN-z11よりもさらに遠い可能性のある銀河候補天体HD1が発見されたのです。HD1の赤方偏移は z = 13.27 と推定され、これは約135億年前（現在の距離は約334億光年）の宇宙の姿を示唆しています。

最も遠い天体の記録は更新されましたが、GN-z11が初期宇宙、特に宇宙再電離期における銀河の誕生と進化を理解するための貴重なターゲットであることに変わりはありません。今後のさらなる観測によって、GN-z11やそれより遠方の天体に関する詳細な情報が得られることが期待されています。

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