GO AHEAD! (アルバム)

山下達郎『GO AHEAD!』：音楽的転換期と新たな出発

1978年12月20日にリリースされた山下達郎の3枚目のスタジオアルバム『GO AHEAD!』は、彼の音楽家としてのキャリアにおいて重要な転換期を示す作品です。それまでの作品とは異なるアプローチが随所に見られ、音楽性の多様さと、山下達郎自身の作家性が強く反映されています。

前作『IT'S A POPPIN' TIME』を経て、山下達郎は東京を中心に高い評価を得ていましたが、レコードセールスの大部分は東京近郊に集中していました。CM音楽などの仕事もこなしていましたが、レコード会社からは「技術はあるものの、セールスに繋がらない」という評価を受けていました。

当時、ロックやフォークの世界観に新たな段階に入ったと感じていた山下達郎は、このままでは音楽活動を続けることが困難になるのではないかと危惧していました。そのため、『GO AHEAD!』を最後のアルバムとして制作する覚悟で臨んだといいます。

このアルバムに収録された楽曲は、それまでの作品に比べて作家性が非常に強く、作曲家として生きていくという強い意志が感じられます。しかし、アルバム1枚分の楽曲を自信を持って制作することができなかったため、過去に提供した楽曲やカバー曲も収録することになりました。

この結果、シカゴR&B風の楽曲から、ポリリズム・ファンク、コード・プログレッションを意識した作品まで、多彩な音楽性が混在するアルバムとなり、評論家やリスナーからは「まとまりがない」といった批判も受けました。しかし、このバラバラな楽曲群は、山下達郎の音楽性の幅広さを示すものであり、以降のアルバム制作における多様な方向性の萌芽ともいえるでしょう。

代表的な楽曲として、「LET'S DANCE BABY」「BOMBER」「潮騒 (THE WHISPERING SEA)」などが挙げられ、これらはベストアルバムにも収録され、高い人気を誇っています。

アルバム・カバーのデザインは、前作までと同様にペーター佐藤が担当しました。限られた予算と時間の中で制作されたイラストは、日本のメディアから酷評された一方、アメリカでは絶賛されました。この出来事から、日本と海外のカルチャー・ギャップの深さを痛感したというエピソードも残っています。

アルバムには、様々な楽曲制作の経緯が見て取れます。例えば、「LOVE CELEBRATION」は当初、細野晴臣プロデュースのリンダ・キャリエールのアルバムのために制作された楽曲で、ボーカル録音が不調に終わったため、山下達郎のアルバムに収録されることになりました。また、「LET'S DANCE BABY」は、東芝のディレクターから依頼された楽曲で、アルバム制作の過程でシングルカットされることになったという、意外な経緯を持つ楽曲です。

『GO AHEAD!』は、山下達郎にとって、音楽家としてのアイデンティティを確立し、新たな方向へと進んでいくための重要なステップとなりました。このアルバムが、後の彼の音楽活動の礎を築いたことは間違いありません。

2023年には、RCA/AIR YEARS時代のアルバムがアナログ盤とカセットテープで再リリースされる企画の一環として、『GO AHEAD!』もリリースされました。この再リリースは、長年のファンのみならず、新たな世代のリスナーにもこの名作を届ける機会となりました。オリコン週間アルバムランキングでも3位を記録し、40年以上前の作品が再び高い評価を得たことは、このアルバムの普遍的な魅力を示すものと言えるでしょう。この再リリースには、未発表音源として「潮騒」の英語バージョンやカラオケバージョンなども収録され、ファンにとって嬉しいサプライズとなりました。

そして、このリイシューに伴い、YouTubeでは山下達郎本人がノンストップミックスで編集したティザー映像が公開され、「PAPER DOLL」「LET'S DANCE BABY」「BOMBER」「潮騒 (THE WHISPERING SEA)」といった代表曲がダイジェストで楽しめる内容となっています。

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